住宅ローンが連帯債務の場合の個人再生~弁護士は無理と言った

~ちょっと特殊な住宅ローンを抱えていて、弁護士から、「個人再生はできない」と突き放されてしまった方のご相談に、弁護士(宮城 仙台)がお答えします~

【ご相談内容】個人再生住宅ローン特別条項と連帯債務について

私のだらしなさが原因ではありますが、借金を作ってしまいまして、現在、多重債務者状態です。

ですが、現在、2世帯住宅の住宅ローンを抱えており、私と父が連帯債務者になって、住宅ローンを組んでいます。

(なお、父は年金生活なので、実際には、私が毎月の住宅ローンを支払っており、遅れはありません。)

そこで、住宅を確保しながら、債務を整理する手段として、弁護士から個人再生手続きを勧められました。

私も、そのような方法があるなら是非お願いします、と依頼して、準備を進めていましたところ、昨日、弁護士事務所から連絡があり、

「住宅ローンの契約書を見たら連帯債務者になっている」

「この場合には、個人再生手続きは使えないから、破産していただくしかない」

「破産する場合には、住宅ローンを支払い続けることもできないので、住宅はあきらめてください」

と言われました。

私は、住宅の状況、つまり、父と連帯債務者になっていることは、相談のときに話したのですが、

「そういう話は相談のときはなかった」

「どうしますか?破産でいいですか?」

と一方的です。

本当にダメなら、ダメなものをいつまでもこだわっていても仕方がないのですが、どうにも腑に落ちないので、再度、ご相談させてください。

【ご回答】

個人再生の住宅貸付資金特別条項~連帯債務の場合

状況として、現在のご自宅をあなたと父親が共有しており、住宅ローンについは、2人が連帯債務者なんですよね?

それで、弁護士さんに個人再生はできないって言われました?

期限の利益喪失の問題

まず、一般的な問題として、銀行の住宅ローンの契約(金銭消費貸借契約)上、

お金を借りたのが1人でなく複数人であり、連帯債務者になっている場合、いずれか一人が、破産や民事再生を申し立てることは、他の連帯債務者についても【期限の利益喪失事由】になっている場合があります。

【期限の利益喪失】というのは、要するに、

”これまでは、分割払いを認めていたけれど、今後は認めないので一括で支払ってください”

と債権者から言われるようになることです。

分割払いが認められなくなり一括での支払いを求められますので、普通は対応できません。

(もともと一括払いができるくらいなら、通常は、わざわざ利息など払わずに払ってますよね)

ですので、例えば、あなたが民事再生(個人再生)を申し立てると、銀行(金融機関)から、

「一方の連帯債務者(あなた)が個人再生を申し立てたので、期限の利益喪失ということで、一括払いしてください」

父親が言われてしまうと、あなたの弁護士は判断したということです。

「うーむ。そうか、やはり、あの弁護士が言っていた通りなのか。」

とあきらめないでください。

期限の利益喪失条項は、「できる」条項

個人再生(民事再生)の申し立てが通常の銀行取引においては「期限の利益喪失」事由になっているとは言いましたが、必ず、「期限の利益を喪失する」というわけではないのです。

どういうことかと申しますと、銀行側は、期限の利益を喪失させることが『できる』となっているのです。

従いまして、期限の利益を喪失させて、一括払いを求めてもいいし、はたまた、期限の利益を喪失させないで、そのまま、住宅ローンの分割払いを継続してもいいのです。

どっちをとるかは銀行の自由なのです。

期限の利益を喪失させることは、借りた側からしても大変なことですが、貸した側からしても大変なことなのです。

本当は、何も波風が立たないまま、月々の返済が確実になされるのであれば、それが一番よいのです。

住宅資金特別条項を定めた再生計画の効力

ちょっと話を変えて、少しだけ難しい話をさせていただくと、まず、民事再生法には、つぎのような規定があります。

(再生計画の効力範囲)
第177条  再生計画は、再生債務者、すべての再生債権者及び再生のために債務を負担し、又は担保を提供する者のために、かつ、それらの者に対して効力を有する。

2  再生計画は、別除権者が有する第53条第1項に規定する担保権、再生債権者が再生債務者の保証人その他再生債務者と共に債務を負担する者に対して有する権利及び再生債務者以外の者が再生債権者のために提供した担保に影響を及ぼさない。

重要なのは、第2項です。

再生計画は、・・・再生債権者が再生債務者の保証人その他再生債務者と共に債務を負担する者に対して有する権利・・・に影響を及ぼさない」というのは、

要するに、本来の債務者(主債務者、再生債務者)のほかに、連帯保証人とか連帯債務者がいる場合に、たとえ、主たる債務者(ないしは、一方の連帯債務者)が再生計画の認可を受けても、連帯保証人とか他方の連帯債務者との関係では無関係、つまり、なんら再生計画の影響を受けずに、連帯保証人とか連帯債務者に請求してよい、という規定です。

平たく言うと、ある債権について、連帯保証人や連帯債務者がいる場合、主債務者や1人の連帯債務者が個人再生をしても(連帯保証人や他の連帯債務者が何も手続きをしていなければ)、連帯保証人や他の連帯債務者には、普通に支払いを求めることができる、ということです。

「だから、たとえ、自分自身は、個人再生を申し立てて、認可された再生計画に従って、住宅ローンを遅滞なく支払っていこうとしても、連帯債務者である父親は、期限の利益を喪失させられて、一括請求されて、結局、住宅は失う羽目になるんだ。」

と思うかもしれません。

ですが、さらに、民事再生法203条という規定があります。

(住宅資金特別条項を定めた再生計画の効力等)
第203条  住宅資金特別条項を定めた再生計画の認可の決定が確定したときは、第177条第2項の規定は、住宅及び住宅の敷地に設定されている第196条第3号に規定する抵当権並びに住宅資金特別条項によって権利の変更を受けた者が再生債務者の保証人その他再生債務者と共に債務を負担する者に対して有する権利については、適用しない。この場合において、再生債務者が連帯債務者の一人であるときは、住宅資金特別条項による期限の猶予は、他の連帯債務者に対しても効力を有する。

この規定は、

『個人再生手続きは、連帯保証人・連帯債務者との関係では、原則、無関係だけれども(第177条第2項の規定)、住宅ローンに関しては、(無関係どころか、)主債務者に認められた再生計画の恩恵は、他の連帯保証人及び連帯債務者も享受することができる

ということを意味しています。

「再生計画は、再生債務者、すべての再生債権者及び再生のために債務を負担し、又は担保を提供する者のために、かつ、それらの者に対して効力を有する。」(第177条第1項の規定

という原則に戻るのです。

小難しい話をしてしまいましたが、つまり、

再生計画に従った住宅ローン返済がなされている限りにおいては、それ以上のことを住宅ローン債権者は連帯保証人や連帯債務者に要求できない

ということを理解してもらえればよいです。

期限の利益についても、

再生債務者が連帯債務者の一人であるときは、住宅資金特別条項による期限の猶予は、他の連帯債務者に対しても効力を有する

と規定されています。

他方で、再生計画が認可されるまでは、約半年程度かかりますので、

「その間に、連帯債務者に対して、期限の利益を喪失したから一括返済しろと銀行から請求されたらどうするんだ!」

と不安に思うかもしれませんが、通常は、住宅貸付資金(住宅ローン)特別条項付個人再生を申し立てて、住宅ローンを遅滞なく支払っていけば、銀行は何もしませんし、その他何もペナルティを課したりしません。

なぜならば、個人再生の再生計画の認可がなされることが予想されるのに、ここで、無理に、期限の利益を喪失させて、一括返済を求めても、銀行側からしても、あまり意味がないからです。

そもそもが、期限の利益喪失条項は、「できる条項」でしたよね?

今まで、住宅ローンに関してなんらの遅滞もなく、利息も含めてまじめに支払ってきたのですから、銀行にとってもいいお客さんなんです。

事前に住宅ローン会社に説明するのは良いこと

「そんなこと言っても銀行なんて、いつ手のひらを返してくるか分からない!」

と不安に思われるかもしれません。

ですので、まずは、端的に、銀行に足を運んで事前に説明をすることです。

その上で、例えば、

「個人再生申立ての件につき、〇条の規定にかかわらず、約定の支払いがなされている限りにおいては、期限の利益を喪失しないものとする」

という覚書か何かを取りかわせればいいわけですよね。

金融機関が「書面はちょっと・・・」というのであれば、

事実上、再生計画の認可が下りるまで静観してくれていればよいわけです。

もう、ほとんどローンが残っていないというのであればともかく、売っても(競売にかけても)いくらになるか分からない状況の中で、期限の利益を喪失させるメリットがほとんどありませんし、通常は、住宅ローンについては、保証会社がついていますので、そんな強引なことをすることについて、保証会社がすんなり代位弁済についてOKするとは考えられません。

あとは、こまめに進捗等について連絡をいれておけば、おそらく大丈夫です。

住宅ローンを遅滞せず、すみやかに、銀行と協議をして、個人再生の申立てをすることです。

~個人再生手続き(民事再生法)における住宅ローン特別条項の規定はちょっと複雑で分かりにくかったかもしれませんが、以上、弁護士(宮城 仙台)からの回答でした~