~会社を経営している社長が本当は、会社も自己破産を申請して、自らは自己破産なしいは個人再生をしようと考えていたけれども、費用がちょっと捻出できそうにないので、社長個人だけが破産ないしは個人再生をできないものか?というご相談について、弁護士(宮城・仙台)が回答します~
【ご相談内容】会社代表者(社長)のみの債務整理(破産・個人再生)について
会社経営をしておりますが、3年前から売り上げが下降し続け、それでも、先立つキャッシュがないと、会社が回らないため、不採算の赤字覚悟の工事も受注してまいりました。
しかし、それも、回らなくなってしまい、銀行の新規融資もさることながら、折り返しも難しい状況になってまいりました。
さらに、外注・協力業者も、これまでは、工事完成後の全部後払いで対応してくれていたのに、会社の悪い噂が流れているらしく、半金ないしは3分の1を先に入れないと、人を出せないと言われ始めました。
重機のリース会社も、保証金を積み増ししろ、と言ってきますし、なんだか、寄ってたかって、うちの会社の潰しにかかってきているような気がします。
先日、税理士にも相談しましたが、
「そんなことを相談されても、この状況では融資も申し込めない」
「事業計画が立たない以上は、もはや会社の整理を弁護士に相談してくれ」
と言われてしまいました。
会社の顧問の弁護士先生もいるのですが、
「自己破産・民事再生手続きをするにも金がいる」
「特に、これぐらいの規模の会社だと、300万ぐらいはかかる」
と言われてしまい、
私が、
「会社整理の金はないので、私自身だけの個人の破産・民事再生だけできませんか?」
とお願いしたところ、会社の社長は、会社も一緒じゃないと、個人だけの債務整理はできないとのことでした。
ですが、裁判所に電話して聞いてみたところでは、
「代表者個人だけで受け付けるかどうかは、出してみてもらわないと何とも言えない」
「最終的には裁判官の判断になる」
「裁判所は個別の事件について回答できないので弁護士さんとよく相談してください」
と言われました。
やはり、社長個人だけの自己破産とか民事再生手続きはできませんか?
【ご回答】
社長個人だけが破産するとどうなるか?
社長自身だけの個人の破産・民事再生だけできないか?
ということですが、 結論から言うと、難しいと思います。
まず、自己破産に関して言いますと、
裁判所は、
「代表者個人だけで受け付けるかどうかは、出してみてもらわないと何とも言えない」
と決まり文句のように言いますが、ご相談のお話にあるような実際に稼働している会社で、しかも、そこそこの規模があるのに、
代表者である社長だけが自己破産をしてしまったら、
会社は代表者不在となり、どうにもならない状況になってしまいます。
つまり、法人(会社)の代表者が破産すると、民法653条2号にあるように、法人と代表者との委任関係が終了します。
(委任の終了事由)
第653条
委任は、次に掲げる事由によって終了する。
一 委任者又は受任者の死亡
二 委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと。
すると、法人の窓口になる人がいなくなるので、債権者は法人に対する債権を請求しようとしても、誰にも請求できないということになってしまいます。
それでは困るので、裁判所は、会社も併せて申請してください、と言ってきて、
それを拒むと、個人についての破産の開始決定を出してくれません。
なので、法人代表者個人と法人はセットで破産申請しなければならないという法律はないけれども、裁判所の運用で事実上そうせざるを得ない状況です。
社長個人だけが個人再生をしたら?
「では、自己破産ではなく、代表者が個人再生をするのならどうだ?」
と思われるかもしれません。
個人再生については、民法653条2号のような規定はないので、社長自身が個人再生を申し立てても、相変わらず会社の代表者のままです。
ですが、社長個人だけと言っても、負債の多くが法人の債務の連帯保証である場合が多く、
おのずと負債の額が多額になりがちで、5000万円を超えることが多いです。
そして、5000万円を超えると個人再生を使えません。
また、5000万円を超えない場合には、個人再生をすること自体はできるのですが、
逆に言えば、会社の社長のままですから、会社の債権者たちは、社長宛に、どんどん会社の債務について督促してきます。
しかも、会社の債務については、債務整理をしないということですから、弁護士を会社の代理人に立てることもできません。
さらに、会社の会計と社長個人の会計は、理論上は別個ですが、実際上はお金が行ったり来たりしていることが多いので、
結局、会社の帳簿もみなければならなくなるので、弁護士費用も通常の個人再生の申し立てよりも割高になると思います。
「それでも、いいです。」
「会社の債権者には、『自分自身の債務でないから、どうにもならない。』『自分自身には個人再生の再生計画で定められた債務を支払う義務しかない。』って言いますから大丈夫です!」
というのであれば、できます。
ちなみに言うと、まれに、法人を放置したまま、個人の自己破産申請を受け付ける場合もあります。
休眠会社の状態が長く続いており、債権者が大騒ぎしないということが客観的にも認められるような場合には、受け付けられる場合もあるにはあります。
ですので、チャレンジしてみる価値はあるかもしれません。
法人を整理するかどうかは結局は費用の問題
法人の債務整理(破産、民事再生)をしないで、代表者個人の債務整理だけをしたいという理由は、ほぼ100%費用が捻出できないからというのが理由です。
ですが、実際に着手してみると、
売掛金の回収ですとか、
賃借物件の保証金、
在庫の整理、
保険の解約、
不動産の売却、
過払い金の発生、
その他で結果として、費用を捻出できた例も少なくありません。
一度、決算書や帳簿を持参のうえで、弁護士とよく話し合って、検討してみてください。
~会社の債務を放置して、社長個人だけが自己破産なしいは個人再生をしようとする件について、弁護士(宮城・仙台)から、ご回答申し上げました。ただ、放置前提の話ではなく、放置せざるを得ない状況であるのかどうかも、費用の点を含めて、よく話し合って検討する必要があります~