金を貸してる親が破産すると?個人再生なら返してもらえる?

~親の商売のために、多額のお金を貸し付けたのにその親は破産をしようとしているので、どうしたらよいのか?という方からのご相談に弁護士(宮城・仙台)がお答えします~

【ご相談内容】親族間の貸し借りと破産・個人再生について

親が布団屋をしている(していた)のですが、売り上げ不振で、破産の申請を弁護士に依頼しようとしています。

ですが、私は、今のところ反対しています。

なぜかというと、私は親に約1000万円のお金を貸しているからです。

破産されるとすべてがパーになってしまうんですよね?

また、借用書もありません。

しかも、全部、振り込みではなく、一部は現金です。

もちろん、ちゃんと借用書を書いてくれと言えば書いてはくれるのでしょうが。

やんわりと、お金を返してもらえないと、こっちも苦しい、とは伝えているのですが、適当にごまかされてしまいます。

しかも、親が私に、貸してくれ、と言うときは、いつも最後は、「この家はどうせお前のものになるだから頼む」と言われていました。

家については、一階部分が布団屋で、2階と3階が自宅部分です。

大して、大きくはないですが、それをあてにしてお金を貸してあげたのも事実です。

ようやく、彼女と結婚しようかという段階になってこれです。

ずっと、貯金してきたのに、ほぼ全部が親への貸付金に消えてしまいました。

その上、私があてにしていた家ついては、古い家なので住宅ローンはないとは聞いていたのに、銀行の担保に入っていると最近、判明しました。

破産の手続きを依頼している弁護士からは私に何も言ってこないなあ、と思っていたところ、「身内の貸し借りは、普通とは違うから」って、弁護士には私からの借入れは言っていないそうです。

もちろん、年老いた両親がどうなってもいい、などとは思いませんが、

私にも、これからの生活設計があります。

やはり、私の貸金はパーになってしまうのでしょうか?

借用書を書いてもらって、かつ、弁護士には私の借入れを言わずに破産の手続きが進めば、私の借金は返してもらえるのでしょうか?

それとも、諦めるしかないでしょうか?

ちなみに、両親は、家ぐらいしか財産がなく、今後、年金生活に入ると思いますが、せめて家ぐらい残してもらえないでしょうか?

個人再生に手続きを切り替えてもらえば私の借金は返してもらえるようになりますか?

【ご回答】

破産手続きにおいて債権者を言わないとどうなるか

法的な問題と現実的な問題が、多少、混在しているようです。

まず一つは、ご両親(父親?母親?)が破産を申請する際に、あなたが債権者であると知っていて、あえて、債権者一覧表に載せなかった効果はどうなるのか?の問題があります。

債権者の存在を知りながら、故意に債権者一覧表に載せなかったことは、原則として、免責不許可事由になります。

つまり、あなたの債権は消滅しない、ということになります。

これを「虚偽の債権者名簿提出による」免責不許可事由といいます。

破産を申請する際に、特定の債権者を意図的に隠した(載せない)債権者名簿を裁判所に提出するのは、 「虚偽の債権者名簿提出」に該当します。

そして、免責されないということになれば、そもそも、その破産者は破産宣告をしたにもかかわらず、借金の支払い義務は残ったままということになります。

ですが免責不許可事由に該当するとしても、「裁量免責」という制度があります。

「裁量免責」とは、たとえ免責不許可事由があったとしても、裁判官がその裁量によって、例えば、そんなに悪気があったわけではないから、などと例外的に「免責」することができる制度です。

ですので、裁量免責がなされれば、その破産者の方はやはり免責の対象になります。

免責が許可されても個別にその効果が及ばない債権者がいる

良く分かりにくいかもしれないですが、たとえ破産手続きにおいて免責の許可が出されたとしても、その効果が及ばない債権者がいます。

つまり、

「破産して免責されたかもしれないけど、俺(私、当社)にはその免責の効果は及ばないので、請求し続けるから!」

と言える債権者がいるのです。

聞いたことがあるかもしれませんが、その代表的な債権というのが、租税債権(税金)です。

養育費債権なども、免責の効果が及ばない債権の典型例です。

そして、これら税金や養育費の債権と同様に、

”破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権”

にも、破産の免責の効力は及ばないとされているのです。

従いまして、債権者名簿に載せられなかった債権者は、やはり、

「破産して免責されたかもしれないけど、俺(私、当社)にはその免責の効果は及ばないので、請求し続けるから」

と言えるのです。

ですが、これには例外がありまして、

”当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く”

とされているのです。

そうしますと、債権者であるあなたは、両親が破産手続きをすることを知っています。

ですので、結論としては、免責され、つまり、あなたの貸金は、あなたが危惧しておられるようにチャラになってしまいます。

破産手続きに参加しても貸金が回収できるとは限らない

自分が債権者として関与しないまま破産手続きが進行して、最終的に貸金がチャラになってしまうのが嫌なのであれば、破産手続きに参加することはできます。

ですが、破産手続きに参加したとしても、貸したお金を回収ができるとは限りません。

当然ながら、債権者一覧表の載っている債権者全員が債権を回収できないからこそ、破産手続きになっているのであり、破産手続きが進行すればやはり債権は消滅します。

もちろん、債権者一覧表に載るということは債権者として扱われるということですから、配当があればそれを受けることはできます。

ですが、銀行の担保に入っているのであれば、銀行が第一優先で、その家を売却した代金を回収していきますので、配当もあまり期待できないかもしれません。

ない人からはとれない、という現実

要するに、資産・財産を両親は持っていないのです。

ですので、そもそも、破産手続きに参加・関与する云々の前に、返してもらうことが客観的に不可能な状態なのです。

だって、返すに足る資産・財産を持っていませんからね。

つまり、何が言いたいのかというと、仮に、ご両親が破産手続きをしないとしても、今の状態でも、やはり、あなたに対してお金を返せないということです。

将来、働いて返すということも、今後、年金生活に入るのであれば、やはり無理ですよね。

個人再生にしても同じこと

年金生活者であっても、それが継続的な収入であることには変わりがないので、一応、個人再生の対象にはなります。

ただし、個人再生というのも、債務の全額ではないですが、大幅に債務免除がなされます。

具体的には、総債務額の金額に応じて次のように免除がなされます。

※ただし、総債務額が100万円未満の場合には、免除はなされず、その全額を支払う義務があります。

総債務額100万以上500万円未満の場合

→100万円を支払い、残りは免除

総債務額500万以上1500万円未満の場合

→5分の1を支払い、残りは免除

総債務額1500万以上3000万円未満の場合

→300万円を支払い、残りは免除

債権額3000万以上5000万円未満の場合

→10分の1を支払い、残りは免除

従って、個人再生をご両親が選択した場合でも、あなたが貸したお金の8割程度は返ってこないことになります。

しかも、ご両親の年金の額と、その自宅につけられた担保(抵当権)がいくらかにもよりますが、たとえ、ご両親はたとえ8割程度の免除を受けても、残りの2割程度でさえ、債務を返済していくというのは難しそうではないでしょうか?

親子の場合、相続も含めて総合的に考えた方がよい

ただ、破産しても、あなた方は親子ですよね。

それに、破産して債務をきちんと整理して、今後、年金の中から少しずつでも貯金するとしたのであれば、ご両親がもし他界された場合には、あなたが相続できるわけです。

よく、考えてください。

あなたが、例えば普通の債権者だとして、今は、両親が返す金を持っていないと言ってきた場合、

「だったら、年金もらうんだから、その中から少しでも返してよ」

って言うしかないですよね?

なので、

「破産したらどうしよう?」

とか

「自分の債権がどうなるのか」

とか、心配するというのは、的を得ていないというか、法的な問題と現実的・客観的状況の問題がごちゃ混ぜになっているということなのです。

むしろ、早く、破産してもらって債務を整理してもらった方がいいと思いませんか?

おそらく、破産ということで、あなたの貸付金が帰ってこないことが急に現実的に感じられたのだと思いますが、実は、ずっと、その状態(あなたがお金を返済してもらえない状態)は存在していたのです。

1000万円が返って来なくて、さぞかしショックだと思います。

こういう客観的な話を滔々とされても、

「納得できない」、

「騙された気がする」、

と思うのが通常です。

ですが、返済する金がない人(会社)からは、回収するのは難しいのです。

~以上、弁護士(宮城・仙台)からの回答(説明)でしたが、結局、ない人からはとれないという当たり前のことをご回答するだけになってしまいました。この手の悩み・ご相談は大変多いです~