弁護士に個人再生依頼後の債権者からの連絡~○○って言っちゃった!

~基本的に弁護士に依頼すれば、以降は債権者から債務者本人への連絡は来ないものですが、依頼した直後は連絡が来ちゃうこともあります。そこで、おかしなことを言ってしまったと焦って、弁護士事務所に連絡したのに・・・、もろもろについて、〈別の〉弁護士(宮城・仙台)が代わりに回答して差し上げましょう~

【ご相談内容】弁護士依頼後の債権者からの連絡及び個人再生における銀行口座利用について

もうすぐ、連休に入るのですが、債権者からの督促がきつすぎて、昨日、弁護士事務所に行って、そこで勧められた、小規模個人再生の手続きを依頼してきました。

ところが、本日、債権者から連絡が来てしまい、弁護士を依頼したことを言っていいのか悪いのか分からなくて、何も答えないわけにもいかず、

「すいません。連休明けにまとまったお金が入る予定です」

って、つい、嘘をついてしまいました。

その後、すぐに、弁護士事務所に連絡したのですが、

「弁護士は不在です。その返答の件は弁護士に相談してみてください」

って言われてしまい、折り返しを待っていましたが、まる1日経っても折り返しがいただけず、しつこいかなと思いながらもまた電話したけれども、事務員さんが、

「一応、伝えてはおいたのですが・・・」

「事務員では勝手なことは言えないので・・・」

ということで埒があかなそうでした。

やはり、債権者に私から連絡して、

「嘘を言ってすいません」

って言った方がいいでしょうか?

それと、こういう状態って、普通なものでしょうか?

あと、その弁護士事務所では、はっきり教えてもらえなかったというか、

「その点は、再度、打ち合わせしてどうするか決めましょう」

と言われたままで不安なのですが、

1)小規模事業個人再生の許可がおりたら、銀行系カードローンが債権者であっても、その銀行口座を使い始めていいでしょうか?

2)個人債務者再生の場合には、保険は解約して、その解約返戻金を債権者への返済にあてるということですが、保険契約者が私で、被保険者が夫で、受け取り人が私というものがあります。

ただ、夫が糖尿病になってしまったので、保険契約者を夫に切り替えることで、契約を維持することはできませんか?

【ご回答】

債権者から直接連絡が来た場合に言うことは1つ

もうすぐ、連休に入るのに、債権者から連絡が来て、変なことを言ってしまったので、どうしたらよいか?ということですね。

いずれにせよ、その弁護士の事務員も気が利かないというか、ひょっとしたら、事務所に入って間もないのかもしれません。

もし、弁護士に依頼したにも関わらず、弁護士から各債権者に連絡(これを受任通知ないしは介入通知という)が行く前に、債務者本人に連絡が行ってしまった場合には、言うこと(言っていただくこと)は1つです。

「もう、債務整理について弁護士に依頼したので、そちらから御社に連絡が入ると思います」

です。

ちなみに、

「どこの事務所(弁護士)ですか?」

と聞かれたら、ありのまま(事務所名・弁護士名)を答えてください。

それだけです。

債権者から直接連絡が来ても何もしなくてよい

緊張して、うまく言えない、という場合には、何もしなくてもよいです。

つまり、電話をとらなくてもよいです。

ただし、今回は、あなたは、なんて言っていいか分からなくて、連休明けになんとかするって、嘘ついたから、再度、電話した方がいいのかしら?

とか、そのあたりを気にされているんですよね。

何もしなくてよいです。

遠からず、弁護士からその債権者にも連絡が行きますから。

それから、弁護士さんと連絡が取りずらいのが普通かどうかですが、まあ、そういう事務所もあります。

極端な話として、弁護士が1人しかいない事務所であれば、現実問題、その弁護士が、裁判に行っていたり、調停に行っていたりした場合には、連絡がつきずらいでしょう。

ただ、このような場合の対応をどうすればよいかぐらいは、気の利いた事務員さんなら、さっき言ったようなことをアドバイスするはずなんですけどね。

個人再生後、債権者の銀行口座を使ってよいか

1)小規模事業個人再生の許可がおりたら、銀行系カードローンが債権者であっても、その銀行口座を使い始めていいでしょうか?

許可というのは、「再生計画案の認可」のことですよね?

まあ、もちろん、その段階まで行ったら大丈夫です。

なぜ、債権者が銀行である場合には、その銀行口座を使用してはいけないかというと、相殺されてしまうからです。

具体的に言うと、銀行口座を使う理由としては、例えば、給与をその銀行口座に振り込んでもらうということがありますよね。

民事再生法のことはおいといて、仮に、あなたがその銀行からカードローンを50万借りていて、その支払いを延滞している場合に、そこにあなたの給与20万が振り込まれたら、対等額で相殺されてしまいます。

相殺されるということは、つまり、20万円の振り込まれた給与は、50万のカードローンの返済の一部に強制的かつ一方的に充てられてしまうということです。

「返済は別途、必ず、するから、一旦、給与は返してくれ!」

と言っても返してくれません。

「今月の給与全部取られたら暮らしていけない!」

と泣いても、土下座しても返してくれません。

そういう規定(カードローン取引約款)になっているのです。

多分、カードローンを借りるときに渡されたか、インターネットあるいはスマートフォンに表示されていたと思いますが、多分、読んでいないですよね。

カードローンに限らず、キャッシング、消費者金融(サラ金)等々、貸付業においては、一度でも、滞納したら、期限の利益を喪失するとなっており、遅れずに毎月返済していれば1万円ずつでもいいけれど、遅れた場合には、全額一括で返済しなければならない、

そして、その時点で、たまたま、その銀行の預金口座に、給与だろうが、年金だろうが、借りた金だろうが、預金残高があれば、相殺されてしまいます。

個人再生における相殺禁止

ところが、個人再生の場合には、民事再生法に以下のような規定があります。

(相殺の禁止)
第93条 再生債権者は、次に掲げる場合には、相殺をすることができない。

1 再生手続開始後に再生債務者に対して債務を負担したとき。

2 支払不能(再生債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいう。以下同じ。)になった後に契約によって負担する債務を専ら再生債権をもってする相殺に供する目的で再生債務者の財産の処分を内容とする契約を再生債務者との間で締結し、又は再生債務者に対して債務を負担する者の債務を引き受けることを内容とする契約を締結することにより再生債務者に対して債務を負担した場合であって、当該契約の締結の当時、支払不能であったことを知っていたとき。

3 支払の停止があった後に再生債務者に対して債務を負担した場合であって、その負担の当時、支払の停止があったことを知っていたとき。ただし、当該支払の停止があった時において支払不能でなかったときは、この限りでない。

4 再生手続開始、破産手続開始又は特別清算開始の申立て(以下この条及び次条において「再生手続開始の申立て等」という。)があった後に再生債務者に対して債務を負担した場合であって、その負担の当時、再生手続開始の申立て等があったことを知っていたとき。

法律の条文をそのまま載せられても、難しくてよく分からない、という感じでしょうが、

重要なのは、「1 再生手続開始後に再生債務者に対して債務を負担したとき。」です。

個人再生の申し立てをして、その手続き開始決定を裁判所から出してもらった後には、たとえ預金口座の中にお金が入ってきたとしても、有無を言わさず、相殺はできないとされているのです。

逆に言えば、それ以前に、預金口座に入っていたお金だと、相殺されてしまいます。

「4 再生手続開始・・・の申立てがあった後に再生債務者に対して債務を負担した場合であって、その負担の当時、再生手続開始の申立て等があったことを知っていたとき。」

というのも似たような規定です。

これは、要するに、個人再生の申し立て自体はされたけれども、開始決定がまだ出されていない時に、債権者である銀行が個人再生の申し立てがされたことを知っていた場合には、これも相殺禁止となります。

この場合には、

「個人再生の申し立てがされたことを知っていた」かどうかがポイントになってきます。

通常は、申し立てをしたら、FAXか何かで、銀行に、その申し立ての受理番号を送っておけば、銀行は知っている(いた)ということになります。

ただ、土日を、はさんだりとか、微妙なタイミングの場合も多いので、

確実なのは、開始決定をもらった後です。

個人再生において保険は解約されるのか?

2)あと、保険の解約をご心配されているようですが、その保険の契約者名義を事前に切り替えて、解約をなんとか回避できないかなんていうのは、自己破産のときに問題にはなりますけど、個人再生の場合には、そもそも、解約はしなくてよいのです。

ただ、解約返戻金の金額は、清算価値といって、個人再生において最低限支払わなければいけない金額を計算する際に、その解約返戻金の金額を下回るような返済額にできないという決まりがありますが、解約はしなくてよいです。

何かの聞き間違いか、その弁護士さんが間違っているのか、分かりませんが。

~債権者からの連絡対応のほかに、預金口座、生命保険といろいろ疑問があるようですが、遠慮しないで、どんどんその弁護士さんに聞いたらよいですよ。以上、別の弁護士(宮城・仙台)からの回答でした。~