督促が厳しく父親がうつに!~個人再生・破産で家は守れますか?

~債権者は1名だけど、意外に解決がむずかしい問題について、弁護士(宮城・仙台)がお答えします~

【ご相談内容】債務整理(個人再生・破産等)をしつつ家を維持できるかについて

私の親父は、以前、親戚と一緒に繊維関係の仕事をしておりましたが、最終的には会社をたたみました。

親父からは会社の借金はすべてきれいに清算したと聞いていたのですが、借金の清算のために必要がお金は親戚が立て替えて出していたようです。

最近になって、親父にその立て替えたお金の支払いを求めてきました。

その金額も2000万円を超える多額のお金であり、到底、会社をつぶしてしまった親父に支払える金があるはずもなく、その点は、親戚も知っていたはずです。

なのに、そのような弁解に聞く耳を持ってくれることもなく、結局、裁判を起こされて負けてしまいました。

「判決が出たんだから支払え」

「金がないなんていう言いわけを聞くつもりはねえ」

「お前も息子なんだから親父の不始末はお前にも責任がある」

ってひっきりなしに督促が来ており、私の妻も子供もすっかり怯えきっております。

先日、あまりに、督促がひどいので、

「たとえ、親子でも親父の借金は関係ない」、

「これ以上、うちの家族に何かを言ってきたら警察に通報する」

と言ったところ、親父に対しての督促が異常なくらいに激しくなって、今度は、親父がうつっぽい感じになってしまいました。

ですので、真剣に自己破産を検討し始めております。

親父には、家がありますが、山の中な小さな一軒屋で、売っても200万にもならないと聞いたことがあります。

【ご回答】

住宅を維持するなら個人再生の検討から

まず、個人再生を検討してみましょう。

本件の債務総額を2000万円とします。

そうしますと、以下の表に照らして、債務総額に応じた最低弁済額は、300万円ということになります。

「最低弁済額」とは、読んで字のごとく、最低でもこの金額は弁済しなければならないという額です。

他方で、お父様の資産としては、自宅があり、それが200万円ということですから、いわゆる「清算価値」ベースで返済額を考えても、結局、弁済額は300万円ということになります。

※「清算価値」ベースで返済額を考えるというのは、最低弁済額よりも持っている資産の額の方が多い場合には、その多い方の資産額が最低弁済額になるということです。

なお、「清算価値」というのは、その持っている資産を売却した場合の価値のことになります。

債務総額                      

 ⇒最低弁済額

①100万円未満の場合              

 ⇒その全額

②100万円以上500万円未満の場合       

 ⇒100万円

③500万円以上1500万円未満の場合      

 ⇒債務額の5分の1

④1500万円以上3000万円未満の場合     

 ⇒300万円

⑤3000万円を超え5000万円以下の場合    

 ⇒債務額の10分の1

以上の通りで、家を手放さずに、債務整理を法的に行う手段として個人再生の手続きがございますが、個人再生手続きをとった場合には、自宅の価値を超える返済をしなければならなくなります。

個人再生の手続きの種類

個人再生には、実は、2種類の手続きがあり、1つは、「小規模個人再生」というもので、もう1つは、「給与所得者等再生」というものです。

「給与所得者等個人再生」は、その要件として、

「給与またはこれに類する定期的な収入を得る見込みがあること」

が必要となります。

「小規模個人再生手続き」においては、

『将来にわたり継続的に収入を得る見込みがあること』

が収入要件として必要ですが、

「給与所得者等再生手続き」においては、

『給与またはこれに類する定期的な収入を得る見込みがあること』

及び

『定期的な収入の額の変動の幅が小さいこと』

が収入要件として必要です。

つまり、小規模個人再生の場合の方が収入要件がやさしいことが分かります。

小規模個人再生と書面決議

ただし、小規模個人再生には書面決議というものがあります。

これは、債権者に再生を認めることについて異議があるかないかの意見をとって、過半数の債権者が反対した場合には、個人再生を認めないというものです。

今回の場合には、その裁判を起こしてきて、頻繁に督促してきている親戚が唯一の債権者ということですので、小規模個人再生手続きをとった場合には、その親戚が再生計画案に異議を出す可能性が大です。

そして、異議を出された場合には、債権総額の100%の債権者が同意しなかったということですので、再生計画は認可されるということはありません。

以上が「小規模個人再生手続き」という手続きを選択した場合のお話なのですが、では、書面決議がない「給与所得者等再生手続き」は選択できるでしょうか?

お父様は年金生活なのでしょうか?

それとも、どちらかでお仕事(お勤め)をされているのでしょうか?

いずれにせよ、安定収入があれば、「給与所得者等再生手続き」も利用できるかもしれません。

給与所得者等再生手続きの可処分所得要件

ただ、もう一つ、「給与所得者等再生手続き」において重要な問題というか要件があります。

それは、『可処分所得要件』です。

「小規模個人再生手続き」と異なり、

弁済総額が可処分所得の2年分以上であること

というのが必要なのです。

可処分所得とは,年収額から自分やその扶養者の最低限度の生活を維持するために必要となる所得を除いた余剰のことです。

ただし、これは計算上の余剰です。

本当に余っているかどうかは関係ありません。

ですが、この可処分所得の2年分の額を返済しなければならないとされており、その額は、小規模個人再生での返済額より高額です。

他方で、債権者が再生に同意しようがしまいが、再生計画自体は認可されます。

債権者から異議権を奪う見返りとして、高額な返済額が要求されているということでしょうか。

破産の場合に自宅を守る為には親族に購入してもらう

また、破産をすれば、自宅は資産ですから、安くても売却して、債権者への配当と破産管財人の報酬に充てられることになります。

ですので、家を守るとすれば、例えば、あなたが、買主として200万円を支払って家を買ってあげることができるといいのですが、それも難しいんですよね。

本件は、実はすごい難しい問題です。

取りうる措置とそのメリットデメリットをよーく検討する必要があります。

~以上、いくつか方策はありますが、どれも完全に希望を満たすことは難しいかもしれません。以上、弁護士(宮城・仙台)からのご説明になります~