家を名義変更した後、個人再生・破産をすると?裁判所からの書類は?

~ギャンブル・浪費等をしているわけではないけど、なぜか、借金を増やしてしまう人っていますよね。責める気にならないのかもしれませんが、勝手にカードを使われたり、借金の督促の八つ当たりを受けたり、家の名義変更の手伝いをさせられたりするようになると、ちょっと、考えた方がいいかもしれません。まずは、今後、どうなっていくかについての見通しを弁護士(宮城・仙台)からご説明しておきましょう~

【ご相談内容】家の名義変更と個人再生・自己破産について

夫はタクシーの運転手をしていますが、なぜだかスーパーでの買い物、電気代等光熱費の支払い、新聞代、その他およそありとあらゆるものをクレジットカードで購入し、しかもリボ払いにしてます。

加えて、キャッシングも必要性がないのに、限度枠があると目いっぱい引き出してしまい、財布に入れておき、いつの間にか使ってしまいます。

何度も、すべて現金払いにするように頼んでいましたが、

「ポイントが溜まる」、

「ちゃんとやりくりは考えている」

などと言って、一切聞く耳を持ってくれませんでした。

しかし、案の定、支払いが滞るようになり、毎日、カード会社から、電話がかかってきたり、督促状が送られたりしています。

しかも、私名義でのカードも作らされて、そのカードも利用して借金もしているので、私は、その借金を返すので精一杯です。

夫はそれについても全然申し訳ないという気持ちもなく、もちろん返済の手助けもしてくれません。

夫の方は、とうとう、1社からは訴えられたらしく、裁判所からの書類が送られてきて、夫が留守なので、私が郵便局員から受け取って、夫に渡したところ、

「何で勝手に俺宛の書類を受け取るんだ!」

「こういう書類はずっと受け取らないでおけば済むんだ!」

「郵便局に行って返して来い!」

と怒鳴られ、郵便局に返しに行かされました。

当初は、郵便局の人から、

「一旦、配達したものを受け取ることはしない」

と言われ拒絶されましたが、

「夫に渡せないから困るんです」

と泣きついてなんとか返却することができました。

問題は、本当にこんなんで終わるのか?ということです。

それと、今の住まいは、夫が相続で亡き義母から引き継いだものなのですが、夫が私に名義変更しろと言っています。

夫自身も、もはや、この家を維持できないと分かってはいるようですが、名義変更しておけば大丈夫なものなのでしょうか?

何か問題があることはないですか?

【ご回答】

個人再生の直前に家の名義を変更するとどうなるか?

先に夫名義の家の名義変更についてお話しておきましょう。

仮に、個人再生をした場合には、たとえ、家の名義を変更したとしても、

その名義変更した家の価値は清算価値に組み込まれるでしょう。

清算価値と言うのは、個人再生において、最低限この金額は支払わなくてはならないという最低返済額のベースになる金額です。

例えば、借金が1500万円あって、家の価値が1000万円だとします。

この状況で個人再生をしたとすると、通常であれば、借金が1500万円なので、その2割まで、つまり、借金は300万円まで減額してもらえます。

ところが、家の価値が1000万円あるという場合には、1000万円までしか減額されません。

そして、家の名義を変更したところで、家の価値はあるものとして、

(つまり、普通なら、家は売ってなくなっても、1000万円の現金があるはずですよね?)

結局 、最低でも、1000万円は支払ってくださいと言われるのです。

破産の直前に家の名義を変更するとどうなるか?

また、破産を選択した場合ですが、破産者が破産債権者を害することを知ってした破産債権者を害する行為は、破産管財人によって否認されます(破産法160条1項1号)。

「破産債権者を害する行為」というのが、「詐害行為」というもので、破産する人が持っている財産が少なくなる行為です。

破産する人が自宅不動産を持っているのに、それを別の人に名義変更されちゃうと、債権者はその不動産を差押えすることができなくなってしまいます。

破産する人が生命保険を持っていてそれを解約すると解約返戻金があるのに、その生命保険を別の人に名義変更されちゃうと、債権者はその生命保険を差押えすることができなくなってしまいます。

もっと分かりやすい話で言うと、銀行貯金があるのに、それをごっそり引き出して、それを別の人にプレゼントされちゃうと(これは、法律上は、「贈与」と言います。)、債権者はその銀行貯金を差押えすることができなくなってしまいます。

ですので、破産の前にそのような行為がなされていることを破産管財人は見つけ出し、「否認」するのです。

「否認」とは、その名義変更行為の効力をなかったことにすることです。

例えば、せっかく、自宅不動産を妻の名義にしたとしても、元の夫名義に戻されてしまいます。

そして、戻した後に、没収されてしまいます。

なぜなら、この不動産はもともと破産者である夫名義のままであったとみなされるので、夫名義の財産はすべて「破産財団」といって、破産管財人の管理に組み込まれてしまうのです。

一旦、管理に組み込まれた財産は、破産管財人の報酬になるか、債権者への配当金になります。

ただし、このように破産管財人が否認するためには、要件があります。

それは、名義変更を受ける側、財産をもらう側が、

「その行為の当時,破産債権者を害する事実を知っていたこと」です。

つまり、財産の名義変更を受ける時点で、その財産を渡そうとする相手が、借金などの問題を抱えていて、その中で、あえて名義変更等をしてしまうと、その借金の債権者等が差し押さえ等をできなくなって困るということを知っていることです。

何も知らないで、見た目はすごい景気がよさそうな会社の社長さんが、

「お前のことを気に入ったから、おれの持っている別荘をやるよ」

と言われて、その名義変更を受ける分には全く問題がありません。

仮に、後日、その会社の社長さんが破産したとしても、破産管財人から、

「その別荘を返せ」、

と言われることはありません。

個人再生や破産をしなければ名義変更は問題にはならない?

ここで、何か気が付いたことはございませんでしょうか?

「要するに、破産しなければ、財産の名義変更しても問題ないんじゃない?」

ということです。

破産しなければ、当然ながら、そもそも、破産管財人が現れようがありませんから、破産しなければたしかに、否認などということは問題になりようがないのです。

債務を抱えた状況で財産移転をすると詐害行為取り消しの可能性がある

しかしながら、債権者からすれば、破産はしないけれども、どんどん債務者の財産が他人名義にされてしまっても、指をくわえて見ていなければならない、というのはたしかに不公平です。

それで、このような場合に、債権者の側には、詐害行為取消権という対抗手段が認められています。

破産管財人ではなく、債権者自らが、詐害行為の取り消しを裁判所に請求することができるとなっております。

ただし、この場合にも、名義変更を受ける側、財産をもらう側が、

「その行為の当時,債権者を害する事実を知っていたこと」

が請求する要件として、必要となります。

「名義変更しておけば大丈夫なものなのでしょうか?」

「何か問題があることはないですか?」

というご質問に対しては、結局、やっても意味がないですよ、というのがお答えになります。

ただ、そのことを夫が理解してくれなさそうですね。

裁判所からの書類の受領を拒み続けるとどうなるのか?

次に、裁判所からの書類というは、

訴状(つまり、債権者である相手方からの貸金返還請求訴訟の書類)

かと思われますが、この訴状という書類は、送達されないと、裁判が始められません。

その意味では、ご主人が言っていることはたしかに正しいです。

ですが、裁判所も、

「送り返してきたから送達できないので仕方ないね。」

「諦めましょう。」

とはなりません。

そのうち、家の郵便受けに普通郵便として放り込まれて、送達された(受け取られた)ものとみなされて、裁判が始まってしまいます。

「本当は受け取ってないのだから、裁判所に出頭することもできないはず」

「だから、裁判は進められないのではないか?」

と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。

もはや受け取ったものとみなされてしまっているので、(受け取った)本人が欠席しても、どんどん裁判は進んでしまいます。

欠席すると、それは単に、相手方である原告(債権者)の言い分を認めるという態度であると判断されるだけです。

~以上、ご主人から借金を背負わされて、それを支払うのみならず、家の名義変更まで手伝わされそうになっているようですが、これ以上、いろいろ心配してこうして代わりに調べてあげたり、心配してあげる必要があるのでしょうか?
大きなお世話ですが、債務の整理も含めて、トータルでよく考えた方がよろしいのではないでしょうか?以上、弁護士(宮城・仙台)からのご忠告となります~