ペアローンは個人再生できない?住宅ローンを組んだ時に聞いてない!

~住宅ローンと言えば、以前は、夫が単独の名義で住宅ローンを組む、か、夫が単独の名義で住宅ローンを組み、加えて、妻が連帯保証人になる、というケースがほとんどでしたが、最近は、女性の経済力がついてきているとか、夫婦権利平等の精神が浸透しているとか、いう事情から、連帯債務やペアローンで住宅ローンを組むというケースも増えております。今回は、個人再生とペアローンの関係について、弁護士(宮城・仙台)から、少し難しいお話をさせていただきます~

【ご相談内容】住宅ローン(ペアローン)と個人再生について

夫婦共働きの子供1人の家庭です。

妻はベンチャー企業のエリアマネージャーで、ぐんぐん業績を上げて、そのうち執行役員になるかもと話を聞いております。

したがって、家計も大半が妻が支えてくれている状況です。

私は、以前は、個人で学習塾を開いていたのですが、あまり経営的にはうまくいかず、その塾はたたんで、その後は、いろいろな学習塾の講師をやったり、辞めたりという状況です。

そんな中で、以前の学習塾時代の資金繰りで作ってしまった借金があるのと、私が、仕事をせずにブランクの期間に、妻には言えなくて、お小遣いをキャッシングで賄っていたということもあり、借金が600万円ほどになってしまいました。

それで、妻には内緒で、私の借金について、個人再生をお願いしようと思って、とある仙台の弁護士さんにお話ししたのですが、私と妻の名義の住宅ローンはペアローンという扱いになっているらしく、

「ペアローンがあると、単独で個人再生はできない」、

「やりたければ奥さんにも事情を話して2人で個人再生をしなさい」

と言われてしまいました。

しかし、おそらく、妻には借金はないと思いますし、妻に個人再生を、と言っても、おそらく何がなんだか分からない状況だと思います。

そもそも、妻も、仙台と東京を行ったり来たりの日々が続いており、あんまり、この件についてしっかり話ができておりません。

妻に話さなければいけないのであれば、勇気をもって説明はしようとは思いますが、肝心の私自体が、その弁護士さんが言ったことの意味がいまだ理解できておらず、妻にうまく説明する自信がありません。

そもそも、ペアローンって何が問題なのでしょうか?

【ご回答】

夫婦が住宅を購入する場合のパターン

住宅ローンの組み方については、よく見られるパターンは、

1)夫が単独の名義で住宅ローンを組む

というものですが、それに加えて、

2)夫が単独の名義で住宅ローンを組み、加えて、妻が連帯保証人になる、

というもの割とあります。

さらには、

3)夫と妻が連帯債務者になる、

というものも最近出てきましたし、

4)ペアローンというものあります。

2)の「連帯保証」と、3)の「連帯債務」って何が違うの?

と、よく理解できない方も多いと思います。

「連帯保証」はあくまでも「保証」なので、本来、支払い義務を負うのは夫です。

仮に、妻が連帯保証人として、返済をしたとしても、

「私が代わりに立て替えて支払ってあげたのだから、その分、返して」

と、妻は言えることになります。

住宅ローンを貸している銀行も、夫をすっ飛ばして、いきなり、妻に返済を求めるなどということはしません。

夫に督促して、それでも、らちがあかないときに、初めて、妻に

「保証人なんだから何とかしてください」

と請求が入るのです。

「連帯債務」の場合には、もともと、夫と妻が2人で連帯して、住宅ローンを借りている、ということになります。

借主としての地位は平等です。

銀行としても、何か請求することがあれば、連名で請求します。

しかも、仮に、妻の方が支払いをしたとしても、それは、保証人として立て替えて支払ったわけではなく、そもそも妻はお金を借りている当事者として返済しているだけです。

ペアローンとは

それで、いよいよ、ペアローンについてです。

これは、住宅を購入する際に、その住宅の2分の1ずつをそれぞれが購入し、それぞれがローンを組むことです。

住宅の2分の1を夫が購入し、残りの2分の1を妻が購入するような場合に、その2分の1を購入するために夫は2分の1用の住宅ローンを組み、他の2分の1を購入するために妻も2分の1用の住宅ローンを組むというものです。

ですので、住宅ローンとしては、本来は個別です。

夫は、自分の2分の1に相当する分についてだけローンを支払えばよいし、妻も同様です。

ところが、2分の1とか別個とか言ったところで、1つの家です。

2分の1ずつを自由に売り買いするわけにもいきません。

そこで、住宅ローンを貸し出す銀行としても、夫か妻のどちらか一方が返済を滞らせても、住宅全体を売却できるようにするために、もう片方についても担保に取るのです。

それがペアローンです。

そうしますと、夫の2分の1の住宅は、夫自身のローンのための担保にもなっているけれども、妻のローンのための担保にもなっているのです。

逆もまた然りです。

妻の2分の1の住宅は、妻自身のローンのための担保にもなっているけれども、夫のローンのための担保にもなっているのです。

ペアローンと個人再生の住宅ローン(住宅資金)特別条項との関係

個人再生(民事再生)における住宅ローン(住宅資金)特別条項とは、個人再生を申し立てても、住宅ローンについては支払いを継続して、住宅を持ち続けることができるという特別の条件です。

自己破産の場合には、こうは行きません。

自己破産をすると住宅は手放さなければならなくなります。

ところが、次のような条文があるのです。

民事再生法 第198条 第1項

住宅資金貸付債権(民法第500条の規定により住宅資金貸付債権を有する者に代位した再生債権者が当該代位により有するものを除く。)については,再生計画において,住宅資金特別条項を定めることができる。ただし,住宅の上に第53条第1項に規定する担保権(第196条第3号に規定する抵当権を除く。)が存するとき,又は住宅以外の不動産にも同号に規定する抵当権が設定されている場合において当該不動産の上に第53条第1項に規定する担保権で当該抵当権に後れるものが存するときは,この限りでない。”

これは、どういうことかと言うと、

住宅ローン債権を担保するための抵当権のほかに、住宅ローン債権でない債権を担保するための抵当権(別除権)が住宅に設定されている場合には、住宅資金特別条項を利用できないということです。

「えっ?夫も妻も住宅ローン債権じゃん!?」

と思うでしょうが、夫から見た場合、妻の持ち分の住宅ローン債権を保全するための抵当権が夫の持ち分につけられている状態は、『夫の』住宅ローン債権ではない、ということになり、住宅資金特別条項は認められない、という扱いになっているのです。

「信じられない。夫婦は一体なんだから、そんなのおかしい!」

と思いますよね。

そう思います。

ですが、本気で裁判所ではこういう解釈なのです。

要は、夫婦といえども、ペアローンの場合の夫婦は他人扱いです。

ペアローンでも必ずしも夫婦ともに個人再生しなければならないわけではない

そのため、夫婦一緒に個人再生をするということになるのですが、借金もない妻の個人再生って意味ないですよね?

なので、夫婦等の一方だけが個人再生を申し立てた場合であっても、他方の住宅ローンを担保するための担保権が実行されるおそれがなく、住宅ローン会社も同意しているときには、住宅資金特別条項の利用が認められるとされています。

ですが、間違いなく、再生委員がつくことになり、再生委員の意見が必要となります(そもそも、東京は全件について再生委員がつくのですけど)。

しかし、それも認めず、あくまでも夫婦でそろって個人再生を申し立てないと、住宅ローン特別条項は認めない、という裁判所もあるようです。

うちの事務所ではまだ、その例はありませんが。

ですので、ひょっとしたら、ご相談者様に、

「やりたければ奥さんにも事情を話して2人で個人再生をしなさい」

と言っている弁護士は過去にそのような経験があるのかもしれません。

ただ、まずは、単独申し立てをチャレンジしてみてもらった方がいいとは思います。

もちろん、その弁護士がOKというかどうかですが。

~大体わかりましたでしょうか?奥様に説明できそうですか?どうしても難しいようであれば、やはり、頭を下げて奥様にも一緒に弁護士事務所に説明に行ってもらうのがよろしいのではないでしょうか?なお、もっと、難しい話を少しすると、理論上は、ご相談者様の持ち分についている奥様の住宅ローンの担保の債権は住宅資金貸付債権ではなく、連帯保証債務の履行請求権ではないのか、という、問題も実はあります。ですが、字句の形式的解釈で本来の条項の趣旨が生かされないのは本当におかしいと思います。申立する弁護士(仙台、宮城)としてはそう思うのですが、実態上の運用を無視するわけにもいかず、難しいケースなんです。~