~個人事業主の場合に、自己破産とすべきか、小規模個人再生とすべきか、これは、いつも悩ましい問題です。
通常は、事業を継続したいという熱意をお持ちの方が多いですから、小規模個人再生を選びます。
ですが、小規模個人再生の再生計画が認可されたと言っても、それにしたがった返済がなされなければ結局、時間と費用と手間をかけて行った小規模個人再生の意味がありません。
中途半端にしか返済できなくて、途中で挫折するなら、自己破産の方を選択して、時間と費用と手間をかけた方がよかったではないか、というのはその通りです。
ですが、小規模個人再生で裁判所から認可された再生計画の履行が難しくなっても、すぐに、あきらめる必要はありません。その点について、弁護士(仙台・宮城)からご説明を致します~
【ご相談内容】個人再生とその支払い困難について
妻の実家が小規模個人再生に入ったということです。
昔からある豆腐屋です。夫婦でのいわゆる家族経営で数年前に機械を一新して借り入れを起こしてからおかしくなったようです。
もう年でもあるので、破産して廃業ということでもいいような気がしたのですが、私が口を出すことでもないので、特に何もコメントしておりません。
個人再生で毎月返済を20万ずつしながら豆腐屋を細々と続けるのはよいのですが、本当に、支払いと営業を両立できない場合、つまり、再生に従った返済ができなくなった場合どうなるのでしょうか?
生活面は仕方がないので私たち夫婦が多少は援助できますが、返済金まではとても応援できません。
やはり、破産になりますか?
それともう一つ、妻が最近、自動車ローンを組もうとしたのですが、審査で落ちてしまいました。
それで、私がおかしいなと思い、妻の両親の個人再生の手続きをやっている弁護士にこっそり聞いたところ、
弁護士からは、「やはり親子なので、車のローンについても子供に微妙な影響を及ぼすことが考えられます。」
と回答を受けました。
ですから、妻には、「(あなたの)親のせいだから、新車はあきらめて、現金中古にしなさい。」と言ったのですが、
「親は親、子は子だから、親が破産や倒産したって、子供に影響するわけがない。しかも、民事再生(小規模個人再生)は破産じゃない!」などと、口答えして私の言うことを聞くはずがありません。
弁護士がそう言っていたというのに、それを受け入れようとしない妻も頑固で仕方がないですが、改めて個人再生が家族にどのような知っておきたいです。
【ご回答】
個人再生後返済できなくなったらどうなるか?
つまり、(小規模)個人再生をやったはいいけど、途中で返済ができなくなったら、どうなるかというご質問ですね。
それは普通に、債権者から、「お支払いが確認できないんですけど」「至急お支払いください」と督促の電話が入ります。
それでも支払わないと、いよいよとなれば、普通に訴訟が起こされます。
そうすると、普通の貸金請求訴訟と同じことになりますので、判決が確定すれば強制執行、すなわち、給与差し押さえもあり得ますし、個人再生の場合には住宅をお持ちの方も多いと思いますが、住宅の差し押さえ・競売ということもあり得ます。
再生計画の取り消し
他方、あまり見ないのですが、総債権額の10分の1以上を有する債権者には、再生計画取消の申立をすることが認められているので、やる気があれば、当該再生計画取消の申立をしてくる可能性はあります。
仮に、この再生計画取消の申立がなされて、実際に取り消されると、再生計画が取り消されます。
何を言っているんだといことですが、要するに、再生計画、すなわち、債権カット(債務免除)などなかったことになるのです。最初に苦しんでいた債務全額がまた復活するということになります。
返済できなくなったらどうする?
他方、債務者側としてもう何もできないのかというと、そういうわけではありません。
一つは、個別に債権者に対して、「もう少しお待ちください」「来月まとめて払います」「滞納した分は3年以内に支払い終わるように必ず帳尻を合わせます」「3年間を少し過ぎるかもしれませんが勘弁してください」と待ってもらうことです。これが一番、現実的です。
ですが、そのこちらからのお願いを受ける受けないは債権者の自由ですので、強制力はありません。
再生計画変更の申し立て
そのため、正式に支払い延長の命令を裁判所から出してもらうためには、再生計画変更の申立を行う必要があります。
ただし、もちろんですが、要件があります。
1つ目は、再生計画に従った返済が著しく困難であることです。
普通は、著しく困難だから、申し立てをしているので、大概、この要件は満たします。
2つ目は、それがやむを得ない事情に基づくことです。
体調を崩して、フルで仕事ができなくなったとか、リストラされて転職したら給与が下がったとか、子供が私学に入ったために家計支出が増大したとかです。
これが認められると、支払い期間が最大2年間延長されます。通常、個人再生の支払い期間は3年が多いですが、その場合には支払い期間が5年になります。もともと、5年の場合には、7年にまで延長されます。
ハードシップ免責
また、こちらもあまりないですが、「ハードシップ免責」という制度があります。
これは、次の民事再生法上の要件を満たした場合に認められるものです。
(計画遂行が極めて困難となった場合の免責)
第二百三十五条 再生債務者がその責めに帰することができない事由により再生計画を遂行することが極めて困難となり、かつ、次の各号のいずれにも該当する場合には、裁判所は、再生債務者の申立てにより、免責の決定をすることができる。
一 第二百三十二条第二項の規定により変更された後の各基準債権及び同条第三項ただし書に規定する各再生債権に対してその四分の三以上の額の弁済を終えていること。
二 第二百二十九条第三項各号に掲げる請求権(第二百三十二条第四項(同条第五項ただし書において準用する場合を含む。)の規定により第百五十六条の一般的基準に従って弁済される部分に限る。)に対してその四分の三以上の額の弁済を終えていること。
三 免責の決定をすることが再生債権者の一般の利益に反するものでないこと。
四 前条の規定による再生計画の変更をすることが極めて困難であること。
・・・とても、読みづらい条文ですが、簡潔に言うと以下の通りです。
・認可された再生計画に定められた再生債権のうち4分の3以上の返済を終えている
・債務者の責めに帰すことができない事情により、著しく返済が困難
・債権者の一般的な利益に反しない
・再生計画変更(延長)が極めて困難である
「債権者の一般的な利益に反しない」というのは、いわゆる清算価値保証というもので、仮に、認可の時点で破産してくれていたら、もっと配当があったのに、という債権者の側から言われないようにするためのものです。ですので、認可時の現預金・自動車・保険その他財産の総額よりも下回ることができません。
一番問題になる要件は、「債務者の責めに帰すことができない事情により、著しく返済が困難」ということです。
事例が乏しいため、このような内容なら認められるというものの判断が難しいのですが、体調不良で会社を辞めた等の事例において、ハードシップ免責が認められた例があります。
個人再生が家族与える影響
それと、最後の部分の弁護士さんのコメント「やはり親子なので、車のローンについても子供に微妙な影響を及ぼすことが考えられます。」は、誤りです。
親子だからって、金融の信用情報で影響を及ぼすことはありません。
ですので、ローンが通らなかったのは、少なくとも、その奥様のご両親のせいではありません。
~再生計画変更(延長)も難しい、ハードシップ免責もできなそう、ということになると、やはり、最終的には(自己)破産手続きにより、債務(負債・借金)を処理しなければならないことになりそうです。
おそらく、費用もまた掛かってしまうとは思いますし、残念ですが、当時としては事業継続の意欲があってそれを選択したわけですから仕方がないですよね。
「最初から破産であれば・・・」というのは結果論です。以上、再生計画が通ったものの無念にも挫折した場合についての弁護士(仙台・宮城)からの解説でした~