任意売却業という業種・業態はない
「任意売却」という言葉は、いわゆる競売(強制競売)との比較において使われる用語ですが、「任意売却業者」という業者はいないのです。
では、インターネット上で、
「任意売却ならお任せください!」
「任意売却なら経験豊かな当社がサポート」
「任意売却専門」
などと謳っている業者はなんなのか、というと、普通に不動産屋です。
不動産屋なのですが、住宅ローン抵当がついていたり、
事業用不動産に根抵当が張られていたり、
あるいは、もともとは担保にとられていなかったのに差し押さえされたり、
そのような不動産の売却をすることを専門にしていたり、
メインにしていたりする業者です。
ですが、じゃあ、その業者さんに、
「あのう、抵当とか、競売とか、全く関係ない不動産を売りたいんですけど」
というと、
「ハイ!喜んでやらせていただきます。」
と言います。
要は、売れる物件であれば、彼らは何でもいいんです。
任意売却の特殊性
不動産の売買をするのに抵当がついていたりすると、売るのに厄介です。
もちろん、売却金額がローン残債務を上回る金額であれば、
売却金額を銀行などの金融機関に渡せばそれでローン(借金)完済なので、
それほど難しい話ではないのです。
しかし、売却金額がローン残債務を下回る金額ですと、銀行等との間で、
「最低、いくらで売却するのであれば抵当を外してもらえますか?」
という交渉をしなくてはならなくなります。
もちろん、銀行等もローン残額を耳揃えて返さなければ担保は外さない、
という事もできるのですが、そのままだとローンの返済が滞ったまま、
ずっと回収ができず、残る手段は競売だけ、という事にもなりかねないので、
そこは、銀行なりに計算して、なるべく多く回収できるようにと考えた上で、
「じゃあ、最低○○円で売却するのであれば抵当は外す」
といった決断を最終的には行います。
銀行交渉の際には、債務の整理に関して弁護士も介入するのですが、
実務的な点については不動産業者が説明することが多いです。
「本当にこの値段でしか売れないのか?」
「なんでこんな価格でしか買主がつかないのか?」
「売却までにどの程度の期間が必要だと予想されるか?」
「この物件の問題点は何か?」
こういう話は、 物件ないしは不動産市場の知識・経験が必要で、
不動産業者的な視点が必要になります。
このような金融機関等への説明等も必要ですし、
売却する際に買主側にも現状有姿、要するに、瑕疵担保責任を負えない旨を説明したり、
金融機関等がOKを出さなければ売買契約はキャンセルになるということを承知してもらったり、
と、通常の売買に比べて、ちょっと、 その点の手間がかかるというか、
そういう特殊な点がある売買です。
でも、不動産の売買である点には変わりはありません。
弁護士から見て使いたい任意売却業者
債務整理に伴う任意売却においては、かなりの程度で金融機関側に気を使わないといけないという実情はあるものの、
債務者の方にとって、可能な限り負担の少ない売却方法を提案できるところを、
弁護士としては、媒介業者として選びます。
金融機関等への説明の労をとるのを嫌がるとか、
債務者に負担(残置物撤去等)をかけることを求めるとか、
そういう業者は使いません。
逆に、物件やマーケットの現状を上手く金融機関に納得させたり、
残置物撤去費用を捻出したり、
債務者の引越しその他の新居確保費用を協力してくれたり、
そういう業者を使います。
だってそうですよね。
言い方はなんですが、宮城県内だけでも、たくさん(不動産)業者はいます。
何も好き好んで、使いずらい業者を使う必要がないですから。
まず弁護士を選んでから任意売却業者を選ぶ
住宅ローンその他の債務整理をご相談にいらっしゃる際に、すでに、
「不動産の売却については○○不動産さんにお願いしているんです」
という方がいます。
よい業者さんならそれはそのままで、あとは密に連絡を取り合いながらやるだけなのですが、
あれが問題だ、
これが大変で、
そこが難しくて、
と文句や嫌みばっかり言う業者もいます。
これは、大手不動産会社いいとか、地元がいいとか、
そういう問題ではなく、ひとえに、担当者がどんな人か、
によります。
任意売却なんだから、それに応じた手間がかかるとか、
そもそも、知識も経験もないのなら、やってもらわなくていいんです。
通常の売買と比べて文句を言う業者は必要ありません。
ですので、あまりにうまく進まないと、依頼者の方に確認して、
「どうしても、この業者じゃないと駄目なんですか?」
と聞いた上で、別に不都合がなければ、別の業者に変えることもあります。
そもそも、金融機関から、
「あの業者さんでは難しくないですか?」
とクレームが入ることもあります。
債務整理を専門に扱っている弁護士であれば、これまでの流れで、
こういう案件はあそこの業者が経験があるな
とか、
あそこの金融機関とは例の業者がうまくやれそうだな
とか、
大体分かります。
特に、ここの不動産屋でないと駄目な理由がないのであれば、弁護士にまずは相談してみてください。