「自分が自己破産すると妻や子供はどうなるのだろう?」
「夫が自己破産すると私が代わりに請求されるのだろうか?」
「私が自己破産すると、子供にどのような迷惑をかけるのだろうか?」
「父が破産すると母や息子である私は路頭に迷うのだろうか?」
家族の誰かが自己破産すると、その影響が残りの家族にどのような形で影響してくるのかが分からず、漠然とした不安感があると思いますので、「法律上の影響」と「事実上の影響」に分けてご説明します。
法律上の影響
法律上の影響は何もありません。
家族の誰かが自己破産したからと言って、その自己破産した方の責任を他の家族が負わされるという事は法律上あり得ないのです。
「お前が支払えないなら、親に支払ってもらえよ。」
「旦那の責任は妻の責任でしょ。」
「親が不始末をしたのなら息子であるあんたが後始末しないと。」
等々、なんだかVシネマでは出てきそうなセリフですが、どれも根拠がありません。
あくまで、法的な債務の支払い責任は「個人主義」であり、家族だから、親族だから等々は一切関係ありません。
もし、そのような責任の追及をしてくる人がいたら、すぐに警察に相談してください。
「法的に支払い義務のない者に対して支払いを迫る」として、
強要罪だと言ってください。
現実、それで警察が立件してくれるかどうかはともかく、
(脅していない、強要していない、などと言うでしょうから)
正々堂々と、
「私には関係ありません」
と言ってよいのです。
そもそも、普通の金融機関はそのような請求をするはずはないですが。
ただし、家族・親族だから、借金の肩代わりを求められるということはないのですが、2点ほど注意してほしい点があります。
(1)連帯保証している場合
これは、連帯保証「契約」に基づくものであって、家族関係があるから、親族だから、債務の支払いを請求されるわけではありません。
よくある例は、住宅ローンです。
住宅ローンで、夫が銀行等でローンを組んでいるけれども、その連帯保証として妻が名義を連ねている場合には、その夫が住宅ローンを支払えなくなった場合には、妻に支払うように銀行から督促が来ます。
この場合、夫を「主債務者」、妻を「連帯保証人」といい、本来は、「主債務者」が支払いをすべき義務があるのですが、その「主債務者」が義務を怠り、支払いがなされない場合には、「主債務者」に代わり、「連帯保証人」が支払いをするという契約を、債権者と「連帯保証人」が約束したため、「連帯保証人」に支払い義務が生じているのです。
住宅を購入する際には、それこそ、たくさんの書類にサインをしたり、印鑑をついたりして、よく覚えていないかもしれませんが、その中の書類に「連帯保証契約書」が入っていることがあります。
その他にも、例えば、親子で二世帯ローンになっているような場合には、親が支払えなければ子供に請求が来ますし、二世帯住宅などで親が子供の住宅ローンの保証人になっている場合もあります。
ですが、これらは、全て、そのような契約を銀行ないし保証会社としていたためであるので仕方がありません。
ついでに言うと、主債務者が自己破産したかどうかもあまり関係がありません。
自己破産するかどうかというよりも、銀行等からしてみれば、約束した住宅ローンがきちんと支払われているかどうかが問題なのです。
ただし、主債務者が自己破産するまでの間は、主債務者に対して「払え、払え」と督促していたのに、その主債務者が自己破産をして、確定的に主債務者からはもう取り立てできないということになったため、連帯保証人に対する督促が厳しくなる、ということはよくあります。
(2)相続が発生している場合
こちらは、自己破産が家族にどう影響するかという問題よりも、借金を抱えた人がいる方が亡くなった場合に、相続するかどうかという問題です。
つまり、ある方が借金を抱えており、その処理をしないままに死亡した場合には相続が発生します。
ですが、相続人の資格を有する方がその相続をするか、または相続放棄をするかは、その相続人の方の自由です。
通常、債務超過、すなわち、亡くなった方の財産よりも債務(借金)の方が多い場合には、相続する経済的なメリットは全くありません。
具体的には、1000万円の財産があったとしても、2000万円の借金があったとした場合、プラスマイナスで考えれば、マイナス1000万円になりますので、相続をしてしまうと、1000万円の損失が出ることは確実です。
したがって、このような場合には相続放棄をするのが普通です。
もし、相続が発生する前、すなわち、その借金を抱えた方が亡くなる前に、自己破産をして借金の支払い義務の免除を得ていた場合には、その時点で借金がなくなったわけですから、その後に亡くなったとしても、相続人は借金の支払い義務を承継することはありません。
ですので、相続人に迷惑をかけないようにするために、生きている間に自己破産の手続きをとって借金の清算をしておくという方がいらっしゃいます。
ただし、仮に、自己破産の手続きをとらなかったとしても、相続人の方は相続放棄をすることができますので、その意味では、
自己破産手続きをとる→相続
自己破産手続きをしない→相続放棄
という2つのことは経済的には同じ意味を持ちます。
ただ、相続放棄をすると言っても、それなりに相続放棄をすることについては要件があります。
相続放棄の期限を徒過してしまった、
相続財産の一部を処分してしまった、
などということにより相続放棄が出来なくなってしまう場合がありますので、その場合には、やむなく相続人が相続をしなければならなくなり、相続人固有の財産があまりなければ、その相続人が自己破産をしなければならなくなるかもしれません。
事実上の影響
以上のように、家族内に自己破産をした方がいても、他の家族には法律上の影響はないのですが、事実上はもちろんあります。
(1)家の問題
自己破産をした時点で住んでいたのが持ち家であったとすると、自己破産の申請により、破産管財人が指名され、破産管財人によって自宅を売却せざるを得なくなります。
自宅を売却することにより、当然、家族もその自宅を出ていくことを余儀なくされますので、家族の居住環境が変わることはもとより、子供の学校の学区が変わったりするなどの影響も考えられます。
(2)資産関係の調査・移転~否認行為
自己破産をすると、その自己破産をした人自身の財産は、原則として破産管財人により処分されるのですが、それのみならず、自己破産の申請以前に、家族間で財産の移転をしていた場合には、その財産移転の調査がなされ、場合によっては他の家族名義の財産の処分もなされることがあります。
具体的に言えば、例えば、家族間で財産の贈与があった場合が問題になります。
自己破産以前に、その自己破産を申し立てようとする方が、車の名義や保険の名義を他の家族の名義に変更してしまったというケースをたまに見かけますが、これは家族間贈与にあたる可能性があります。
もちろん、逆に、本当はお金を出していたのは、違う人なのにたまたま、その自己破産する方の名義にしていおいたということもありますので、その場合には、その事実をきちんと破産管財人に説明・証明する必要があります。
ですが、そのような説明ができないとすると、破産管財人から「否認」といって、その名義変更を取り消され、結局、その車は売却されたり、その保険は解約されたりして、換金され、破産管財人の報酬になったり、債権者への配当になったりするのです。