任意売却とは
任意売却とは、不動産を「任意」で売却することをいいます。
ですが、単に、不動産を「任意」で売却するだけですと、例えば、不動産を相続したものの、田舎の家だし、古いし、自分は東京にマンションを買う予定だということで、その相続した不動産を売却するような場合も、「任意」で売却しているわけですので、「任意売却」になりそうですが、このような不動産の売却は「任意売却」とはいいません。
ところで、「任意」の対義語は、「強制」です。
そうしますと、「任意売却」の対義語は、「強制売却」ということになります。
「強制売却」というのは、要するに、「競売」です。
不動産が差し押さえられて売却されたり、もともと不動産を担保(抵当)に入れている場合に抵当権が実行されることを「強制競売」と言います。
とすると、不動産が強制競売される(かもしれない)ような状況において、あえて「任意」で売却することを「任意売却」と呼ぶのです。
法律上の用語ではありません。
業界(不動産業界、法曹業界、金融業界)用語です。
任意売却できないケースとは具体的には?
以上の通りで、「任意売却」をする局面においては、すでに債権者(銀行、保証協会等の金融機関の場合がほとんどですがそれに限られません。)が競売にかけようと思えばかけられるところ、債権者の思惑により、債務者(不動産の所有者)に対して「任意売却」を認めているのです。
従って、債権者がNO(ノー)という場合には、任意売却できない、ということになります。
ただ、通常は、まったく任意売却を経ないで、いきなり競売ということはあまりありません。
債権者が任意売却でなく競売を行うには、理由があります。
1)債権者が任意売却よりも競売の方が高く不動産を売却(落札)できると評価しているとき
競売の方が任意売却よりも売却(落札)価格が安くなる、と一般的には言われていますが、近時の都市部では、不動産価格の高騰に伴い、競売にすると思わぬ高値がつく場合があります。
これは、不動産業者が不動産の仕入れがなかなかできないために競売市場に流れて入札競争で値段がせりあがってしまう場合があるのと、不動産業者でない一般人も競売に参入することによりいわゆる不動産相場とは異なる値段で入札してくる場合があるためです。
ただし、これは都市部の一部であって、地方ではそうはいきません。
競売をしても、そもそも入札自体が成立しない(入札する人がいない)場合も少なくないため、なるべく債権者も競売を避ける傾向があります。
2)不動産業者と債権者の間で信頼関係がない(なくなった)場合
債権者も不動産の知識や市況について全く素人というわけではないですが、不動産業者そのものではありません。
従って、
「本当にこの値段でしか売れないのか?」
「なんで、この不動産はこの価格になるのか?」
「ちゃんと売却活動をしているのか?」
「この買主はきちんと買うことができるのか(売買契約は成立するのか)?」
等々、いろんな疑問を持っており、ある意味、常に猜疑心を持っています。
そこで、不動産業者がきちんと説明したり、適宜、報告したり、資料を提出したりする必要があるのですが、不動産業者の中には、
分かりやすく説明しない、
なかなか連絡がとれない、
資料をきちんと取り揃えない、
細かいところにまで調査が及んでいない、
等々の問題を抱えた不動産業者(あるいは担当者)がいます。
こうなると、債権者も、
「この業者に任せていてもおそらく任意売却は無理だろう」
と見切りをつけてしまいます。
そして、競売に進む手続きを開始します。
弁護士としては速やかに業者の差し替えをすべき局面です。
3)時間がかかりすぎた場合
任意売却を行い、お客さん(買い手)が現れるまで、無限に待つことができるわけではありません。
通常は、ある値段で売り出しをかけて、それでもお客さんがつかない場合には、値段を下げるしかありません。
ところが、債権者はなるべく高く売却したいものだから、
「そろそろ値段を下げた方が・・・」
「この値段では相場から見て高すぎるのかも・・・」
と言われても、容易に値段を下げることに同意しません。
そうすると、不動産業者も勝手に値段を下げるわけにもいかないので、買い手がつきそうもない値段でずっと売り出しをかけたままで放置して時間ばかりが過ぎるということがあります。
言ってみれば債権者が高値で売却したいがゆえに遅延したわけなのですが、
「もう、これ以上は待っていられないので」
と急に手続きを競売に切り替えたりするのです。
4)行政の差押えがある場合
税金や社会保険の滞納がある場合には、国(財務省)、地方自治体(県・都・市・区)等が滞納処分で差し押さえを入れてくる場合があります。
たとえ、一番手に銀行等の抵当権が入っており、およそ、差押えをしたところで配当があるとは思えない場合でも差し押さえを入れる場合もあります。
そして、この行政の差押えが入った場合には、売却するためには、抵当権のみならず、この差押えも抹消してもらわないといけません。
ただ、なかなか、行政は差押えを解除しません。
地方自治体の中には、一旦、差押えをいれた以上は、何があっても全額支払うまで一切解除には応じない、という方針の自治体もあります。
「このまま競売になってもお宅(自治体)に回る配当はありません。」
「そうしますと、今回の差押えは全く無意味になってしまいます。」
「ですので、ハンコ代(解除してもらう手間費用・協力金)を10万円支払うので差押えを解除してください。」
と言っても応じないのです。
「お宅(自治体)の態度は、経済的に見て不合理ですよ。」
「ゼロ円とわずかでもお金を受領するのとどちらが良いのか分かりませんか?」
と言っても通じません。
「その時はそうなっても仕方がありません。」
「とにかく、これが市の方針なので。」
「差押えを解除してほしければ全額払ってください」
などと状況から見て不可能なことを言ってきます。
ですが、外さないという以上は、そのままでは売却できません。
そこで、過去には、一番の抵当権者が、自分の債権の回収分を減らして(譲歩して)、その減らした分を行政に支払ったケースもあります。
また、別のケースとしては、不動産業者が自らの仲介手数料(報酬)を減らして(譲歩して)、その減らした分を行政に支払ったケースもあります。
このようなケースがあると、行政も、ますます、
「強気に出ていれば周囲が折れてなんとか支払ってくるだろう」
と考えるようになってしまうのです。