任意売却をしているが、なかなか売れないと悩んでいる方、あるいは焦っている方は、競売よりもい任意売却の方がいいと思っているからですよね?
何が何でも任意売却でないと駄目なのですか?
では、任意売却にはどのようなメリットがあるのかについて、まずは見てみましょう。
任意売却のメリット
(1)競売よりも任意売却の方が高く売却できる(と言われている)
任意売却をメインに行っている不動産業者(任売業者)が、まず一番の謳い文句にするのが、
「競売だと安くなってしまいますよ」
「任意売却だと高く売れるから残債務が少なくなりますよ」
ということです。
以前は、競売に参入するのは一部の現金をたくさん持っている不動産業者に限られていましたが、近時では、金融機関が競売用の短期融資を出したり、また不動産業者ではない素人の方が参入したりする影響で、競売価格も上がる事例もあり、一概に競売が安いとは言えない状況になっております。
また、競売物件は落札した後でも、居住者がいると立ち退きが大変だと言われておりましたが、執行法も整備されて立ち退きさせやすくなったことも背景にあります。
ただ、都市部や地方でも割と人気にあるエリアでは競売価格があがる事例もありますが、他のエリアでは、たしかに競売価格が任意売却の価格を上回ることは多くはないようです。
(というよりも、買い手を探すのが大変で、競売しても最低落札価格を超えるような入札が入らない。)
(2)引っ越し代を出してもらえる(金額は様々)
任意売却をしているということは、要するに住宅ローンやその他の支払いに窮しているという状況ですので、通常は、まとまったお金がありません。
そのような中で、
「任意売却ができたので、○月〇日までに立ち退いてください」
と言われても、引っ越すお金がありません。
純粋な引越し代のこともありますが、そもそも、出ていく先(アパート、マンション、借家)の確保のための初期費用もありません。
そこで、抵当権者(住宅を担保にとっている銀行・保証会社)と交渉して、本来は、売却代金は全額回収されてしまうところ、
「本人が立ち退く金がない」
「金がなければ出ていくことができず結局、売買の決済ができない」
という話を出して、
「それじゃあ、売却代金のうち○○円は引越し代にあててよいから」
という譲歩を引き出すのです。
ただ問題は、引っ越し費用としていくらをお願いするかということと、競売に回されるほどの魅力的な物件かということです。
抵当権者は、
「○○円も引越し代を出すくらいなら競売でも構わない」
「そもそも、この物件なら競売の方が高く売れそうな気がする」
と言い出したら、お終いです。
そのあたりの背景事情を見ながら、
「いくらの引っ越し費用がないと出ていけない」
と交渉するのかが難しいところです。
(3)ご近所に知られないで済む?
競売の場合には、たしかに、不動産競売に関するインターネットサイトや新聞に載るには載ります。
ですが、それをいちいちチェックする人がいるのだろうかというと甚だ疑問です。
また、競売になると「執行官」という人間がたしかに調査には来ます。
この「執行官」というのが横柄な態度で傷ついたとかいう人もたしかにいます。
他方で、任意売却の場合には、一般に売り出しをします。
ご近所に知られたいという人はいないでしょうが、任意売却で一番のターゲット層はその地域の方々なのです。
また、「売り出し中」とか「内覧受付」というのぼり旗をご覧になった方がいるかと思いますが、そういう売り方をするのが効果的だからです。
ただ、ご本人が
「地域にチラシをまくのはやめてくれ」
「のぼり旗を立てるなんてとんでもない」
と言っているのに、それを無理強いして、
「こうじゃないと高く売れないんだ!」
「買い手がつかなかったらどうする!」
と強引にそのような売り方をする業者は当然いません。
ですが、内覧自体は実施しないわけには行かないので、見知らぬ人が業者らしき人とガヤガヤと家に入っているのを近所の人が見つけたとすれば、
「あそこのお宅は売りに出しているんじゃない?」
と噂になる可能性もあります。
もちろん、こちらも、予め内覧する方に事情を話したうえで、分からないように静かに入ってください、とお願いすることもできます。
要は何が言いたいかというと、任意売却の場合には、ご近所に知られずに済むというのは、単に売り出し方法の問題であって、任意売却だからご近所に知られない、競売だからご近所に知られる、というのは相対的な問題なのです。
(4)退去のタイミングを相談できる
こちらも、よく任意売却のメリットとして挙げられることがあります。
たしかに、競売で落札がなされた場合には、その落札した人から
「私が落札したので●月●日までに退去してください」
「退去しない場合には、裁判所に申し立てをします」
と言われてしまいます。
さらにそれでも粘って住み続けていると、本当に強制退去させられてしまいます。
ですが、ここに至るまでには、どんなに早くても半年以上はかかります。
他方で、任意売却を選択した場合でも、売却するわけですから、買主が決まれば、当然ながら退去する必要が生じます。
いくら退去、すなわち、物件の引き渡し日を自由に選べると言っても、1年以上も先の期日を指定できるわけではありません。
そんなことを言えば、買主が逃げてしまいます。
ですので、やはり、通常は長くても半年以内ぐらいには物件の引き渡しをしなければならず、そうすると結局、競売で落札されるまでぐらいの期間と大差がなくなります。
逆に言えば、競売の場合であっても、多少の誤差、例えば、8月の末までに退去を求められている場合に、
「ちょっと荷物の関係で9月10日にしてくれませんか?」
と言えば、それを待てないからと強制執行をする落札者はまずいません。
ですので、任意売却だから引っ越し日を選べると言っても、結局、程度の問題に過ぎないことが落ち着いて考えればよく分かります。
以上の通りで、任意売却のメリットは、引っ越し代としてどれくらい抵当権者が譲歩してくれるか、という点に尽きると言っても過言ではありません。
任意売却しているが、なかなか売れない~売れない理由
(1)売り出し価格が高すぎる
いい物件、悪い物件という区別もありますが、どんないい物件でも高すぎると買い手候補が感じれば、やはり、その値段では売れません。
ですので、この場合の解決方法は、値段を下げるしかありません。
ただ、そう簡単ではありません。
なぜなら、抵当権者としては高く売れればうれるほど、自分の会社の回収額が高くなるわけですので、逆に言えば、値段を下げることは、すなわち回収額を下げることにつながります。
二つ返事で、値段を下げることに承諾してくれません。
もちろん、売却できなければ、1円も回収できませんので、その段階で、値段を下げるべきか、はたまた、競売にすべきかという抵当権者側の判断が入ります。
(2)不動産業者が物件情報を抱え込んでいる
不動産業者は、仲介手数料をもらうことによってビジネスが成り立っているのですが、もし、買主を直接的に探すことができれば、売主側と買主側の両方から仲介手数料がもらえます。
他方で、もし、買主を別の不動産業者が連れてきたとすると、買主に対して仲介手数料を請求することはできません。
あくまで、買主を連れてきた不動産業者が買主から仲介手数料をもらうことになります。
ですので、両方から仲介手数料をもらおうとするあまりに、物件情報を自分の会社のみで抱え込んで、他の不動産業者に回そうとしなかったり、不動産業者の問い合わせに対しては応答しないで、直接の買主さんの問い合わせだけに対応する不動産業者がたまにいるのです。
そのために、せっかく別の不動産業者が買主さんを連れてくる可能性があるのに、その機会をつぶしてしまっているということがあり得ます。
ですので、このケースでは売り出し活動をしている不動産業者の売却活動をチェックしたり、注意したりするほか、不動産業者を変更することにより解決できる場合があります。
(3)行政の差押えが入ってしまっている
国税、都道府県、市区町村が税金の滞納などで差し押さえを入れている場合に、当該行政がなかなか差し押さえを外すことに同意しない例が良くあります。
つまり、全額支払わないと、差押えを外さないと言うのです。
ですが、抵当権者としては、
「うちが一番なのに、後から遅れて差し押さえをしてきた行政が全額回収していくなんて納得できない」
ということが多く、なかなか調整がつかないということがあります。
任意売却しているが、なかなか売れない~でも過度に競売を恐れなくてもよい
任意売却で処分できなければ、たしかに、競売になることもあり得ます。
ですが、「任意売却のメリット」で述べた通りで、引越し代がかなり認めてもらえるのであれば、
任意売却にして良かった!
となるかもしれません。
ですが、仮に普通に任意売却ができたとしても、引っ越し代が10万円程度しか認められない場合だってあるのです。
そして、引っ越し代の他は競売と比べて、歴然たるメリットがあるわけでもありません。
そこで、やれるだけやって任意売却を試みたけど、最終的に駄目な場合には、競売になることを前提に、別途、債務整理の準備をしていく方が現実的であるといえます。