不倫の慰謝料が払えないので借金しましたが破産できますか?

不倫をした相手の配偶者から、『1000万円を、借金してでも支払え』と言われて支払った

不倫の慰謝料の性質

不倫

不倫慰謝料とか不貞慰謝料とか言われますが、ここでは不倫慰謝料と統一することにします。

「不倫の慰謝料が払えないので借金しました」

というのは、要するに、

借金の原因・借金の使い道が不貞の慰謝料の支払いのため、ということですね。

(1)(自己)破産では借金の原因を聞かれる

借金の原因にはいろいろあります。

買い物・生活費

医療費

教育費

浪費

ギャンブル

投資

税金・保険料・罰金の支払い

その他いろいろ。

そして、自己破産の場合には、免責不許可事由というのがありまして、借金の原因が所定の事由による場合には免責が許可されない、つまり、借金・債務を帳消しにしてもらえません。

(2)免責不許可になる借金(債務負担)の事由

浪費(つまり収入等に照らして分不相応な買い物や外食・旅行・ゲーム等の支出)

ギャンブル(パチンコ・スロット・競馬・競艇・競輪・オートレース・宝くじ・ロト)

投機行為(株取引・FX・バイナリーオプション・ネットワークビジネス)

借金したお金の使い道がこういうものであったという事になると、免責不許可に該当するのです。

ですが逆に言えば、免責不許可事由というのは予め決められており、それに該当しなければ、裁判所は免責を許可しなければならないとされているのです。

ですので、問題は、不貞慰謝料の支払いが何にあたるかです。

(3)不貞慰謝料がどうやって決まったか

例えば、男性がとある奥さんと不貞して、その旦那から、いろいろ言われて不貞慰謝料として、1000万円(一千万円) を請求されて、 支払ったとします。

問題は、その一千万円というのが、どこから出てきた金額かという事です。

当然、

「相手から支払えと言われたので支払いました。」

ということなのでしょう。

ですが、日本の慰謝料の基準は低いとは言われておりますが、それを考慮しないとしても一千万円は高過ぎます。

これが、裁判で争われて、裁判所の判決で決まったというのであれば、

(それでも、控訴、上告はしますが)

まだ分かりますが、要は、相手の言い値で払ってしまっています。

破産管財人からは、浪費と指摘されるおそれは十分にあるでしょう。

または、実は免責不許可事由には不当な債務負担行為もあるのでそちらも問題です。

非義務的偏頗弁済(ひぎむてきへんぱべんさい)

破産法上、こういう免責不許可事由があります。

”特定の債権者に対する債務について,当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で,担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって,債務者の義務に属せず,又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと。”

つまり、特定の債権者に「特別な利益」を与えるために、「法的な義務」もないのに、その特定の債権者に対する債務について「返済」をすることは、「非義務的偏頗弁済」をしたとして、免責不許可事由になるのです。

「別に特別な利益を与えるとかそういうことではなくて、ただ、ものすごく責められて怖くて、仕方なく、、」

といった状況だったのだろうと思うのです。

気持ちは分かります。

罪悪感と恐怖心とで、その時はどうしていいのか分からなかったという感じだったのでしょうが、さすがに、裁判所の判決もない状況で、それを支払ったのは、法的な義務のない特別な利益だと言われるおそれはあります。

非義務的偏頗弁済を取り戻せないか

(1)公序良俗違反、脅迫、錯誤

基本的には、契約自由の原則というものがあり、当事者間で慰謝料額(損害額)をいくらにするかというのは、当事者間で合意ができていればそれはそれで有効です。

むしろ逆に、後になって、

「あれは高すぎた」

「それは不当に安い」

等々言っても、一旦、合意した以上それを取り消すことは基本出来ません。

ですが、言い方は悪いですが、

美人局だったとか、

生命・身体に対する害悪を告げられたとか、

これを支払わないといけないと思い込まされる合理的な事由があったとか、

そういう場合には、

公序良俗違反(民法90条)

脅迫(民法96条)

錯誤(民法95条)

で取り消せる余地はあります。

ただ、実際上は、当時のやりとりが残っているとも思えず、現実的には取り消して、お金を取り戻すのは難しいでしょう。

(2)破産法上の否認権

民事上ではできない取り消しも、破産法上は取り消すことができる場合があります。

これを「否認権」と言います。

そして、破産法上、

”破産者の義務に属せず,又はその時期が破産者の義務に属しない行為であって,支払不能になる前30日以内にされたもの。”

については取り消すことができるとされております。

したがって、破産者がすでに支払い終わった金員であっても、破産管財人は、破産者の義務に属しない(=破産者が支払う必要はなかった)と言って、否認権を行使してその返還を請求できる余地があります。

ただ、否認権を行使するにあたっての問題があります。

それは、

”債権者がその行為の当時他の破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない。”

とされていることです。

つまり、債権者である慰謝料を請求した人が、その慰謝料を受け取ることにより、他の債権者に対する配当ができなくなることを知っていたということが必要なのです。

これは、否認権行使上、いつも問題になる行為です。

債権者が「いや、その時に借金があるとか、返済に困るとか、そういう状況であるとは知らなかった」と言ってくるとなかなか難しいことになります。

「借金してでも支払え」

に加えて、本当に借り入れをして支払った等の事情があれば、返還請求できる余地もあるでしょう。

そして、ある程度の金額の回収ができれば、免責が認められる事情(債務者により債権回収への協力)が考慮要素となって、裁量免責が認められやすくなるでしょう。

他方、1円も回収できなかったという事ですと、おそらくは、金銭的な財団への積み立て、要は「お金を支払う事」が破産管財人より求められる可能性があります。

分かりやすく言うと、金銭を支払うことを条件に、免責を出すということです。

結論から言えば、そんな高額な慰謝料を借金までして支払う前に弁護士に相談すれば良かったですね。