夫が借金返済ができないので、家の名義を妻である私に変えて、夫は出ていくという別居を提案されています
税金ないし詐害行為取消権
妻ないしは家族のために家の名義を変更して、借金を抱えた自分は家を出ていこうという、ある意味、悲劇のヒーロー的な感傷もあるのでしょうが、現実には、そう甘くはないと思った方がよいでしょう。
(1)税金の問題
おそらくは、夫婦間で家の名義を変更するという事は、その変更の理由は「贈与」になるでしょう。
たしかに、夫婦間贈与は一定の場合には、贈与税がかかりませんが、そんなことを考慮せずに贈与してしまうと贈与税が課される危険があります。
(2)詐害行為取消の問題
詐害行為取消権とは、債務者が、債権者を害することを認識して自己の財産を減少させる行為をしたときに、その行為を取り消すことができる権利をいいます。
難しい言い方ですが、分かりやすくいうと、借金があるにもかかわらず、その借金の債権者が差し押さえできそうな財産を債務者以外の人に移してしまった場合に、債権者がそれを取消できることです。
債権者からすれば、
「借金の返済ができないのであれば、あの不動産を差し押さえて、借金の返済に充てよう」
とか、
「もともと、あの不動産があるから、金を貸したのに」
とか、
債権者の思惑・期待に反した行動をした場合、債権者側は対抗措置として、このような手続きを行うことが民法上、用意されています。
ですので、この詐害行為取消権を行使されると、一旦は、贈与がなされたとしても、その贈与が無効になって、結局、旦那名義に戻ってしまうのです。
そして、債権者がそれを差し押さえることになります。
なお、受益者、つまりもらった側が自らの善意(債権者を害することを知らなかった)ことを立証した場合には、詐害行為取消権は行使できません。
夫婦間で贈与しながら、知らなかったことをを立証するのは、まず無理だとは思いますが。
夫が破産した場合の否認と免責の問題
夫は、家を飛び出して、借金から逃げ回る生活を送るつもりなのでしょうか。
そんなことをしていても、まともに就職することもできず、いつまでも経済的に再生できません。
とはいえ、借金を整理するために、自己破産すると、どうなるかというと、これまた難しい局面に陥ります。
(1)無償行為(贈与)の否認
破産法上、
”破産者が破産債権者を害することを知ってした行為”
は否認されます。
詐害行為取消と同じです。
詐害行為取消は、債権者がやるものですが、否認は、破産管財人がやるものです。
なお、「破産債権者を害する行為」を否認するためには「破産者が破産債権者を害することを知ってした」ことが必要です。
「害する」となっているので、
「私は、債権者を困らせてやろうとは思ってませんでした」
と言えば通じそうですが、そうはいきません。
その行為を行えば債権者がおさえるものがなくなるのは、債務者の立場としては、当然、分かります。
そして、それが分かっていれば「害する」意思としては十分になります。
なお、受益者、つまりもらった側が自らの善意(債権者を害することを知らなかった)場合には、否認権が行使できないのは、詐害行為取消権と同様です。
(2)免責不許可事由
”債権者を害する目的で、破産財団に属し、または属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと”
これは破産法上、免責不許可事由とされております。
免責不許可事由というのは、免責が許可されないということです。
免責が許可されないと、せっかく破産を申し立てたとしても、借金は免除しませんよ、と言う事になります。
債権者からの督促も止まりません。
借金が免除されたわけではないので、債権者はずっと債権者のままで、債務者はずっと債務者です。
借金に負われる生活に終止符を打つことができないのです。
妻としてどうするか(離婚)
まずは、旦那さんが家を出ていくとか別居するとか言っている中で、どういう行動をすべきか、ですが、離婚するのかしないのか、そこを決めないといけません。
離婚するのであれば(離婚を勧めているわけではありません)、きちんと調停をした方がいいと思います。
その中で、ご自身の権利として、財産分与請求、慰謝料請求、養育費請求(子供がいるなら)をしていく方がいいと思います。
家は旦那の名義になっているのでしょうが、結婚後に取得したものであれば、その家は夫婦共有財産で、原則として半分は妻のものでもあります。
また、慰謝料請求が成り立つ場合であれば慰謝料請求権、子供がいるのであれば養育費請求権をあなたは旦那に対して債権として有していることになります。
他方で、家は、債権者から見れば借金の回収に充てられるべき財産とも言えるので、要するに、債権者同士の取り合いになる状況でもあります。
離婚するなら早くアクションを起こした方がいいです。
他方で、離婚しないのであっても、早めに弁護士に依頼した方がいいです。
家については、売却しないといけなくなると思います。
そして、離婚しなくても、潜在的共有持ち分があるので、全く、あなたが何ももらえないということはないと思います。
というか、そういう方向で考えてくれる弁護士さんに依頼したらどうですか。
ただ、離婚するなら話は別です。
夫とはむしろ利害が対立するので、まずは最初にあなたのスタンスを決めて、最初は1人で相談に行ってください。
2人で行って、後に離婚となると、その弁護士はどちらの弁護もできないと思います。