損害賠償を請求しないまま自分が個人再生や自己破産した場合

~「〇〇で困っているんですけど、誰かいい人いないですか?」、「○○をしようとしているんですけど、どこか信頼できる業者を紹介してください」とか言われると、つい、頭に浮かんだ人を紹介してあげよう、とか、あそこを組めば結構いいんじゃないかな、とか、思っちゃいますよね。良かれと思ってやったことが、そのマッチングが上手くいかずにズルズル巻き込まれる羽目になるなんて最悪ですが、実に、世の中、その手のことが多いんです。そして、振り返れば、あの時、「お力になれずにすいません」って突き放しておけばよかったなあ、と後悔ばかり。今回は、そんな残念なことになった場合にどうなるか?についての弁護士(仙台、宮城)からの見込みのご説明をさせていただきます~

【ご相談内容】損害賠償請求する前に個人再生・自己破産を申し立てることについて

私のとある知り合い(Aさんとしましょう。)が、インターネットを使った新しい商売をやりたいとのことで相談を受けて、私もまったく、そのあたりは素人なので、私の別の知り合い(Bさんとします。)を紹介して、うまく連携できればいいなあと思っておりました。

ところが、Bさんは、Aさんにどんどん、いろいろな名目(サーバーの設置料金、ホームページ作成料、その他もろもろ)で請求をかけておりました。

Aさんは、

「何もでき上っていないのに、先にお金だけ請求されて、大丈夫なのか」、

「そんなに急にはお金は用意できない」

と、私に相談してくるので、私は、Aさんに、

「たしかに、その不安はもっともだから、取り合へず、着手金としては半金で済むように話を付けてあげる。」

と引き受けました。

しかし、現実には、Bさんの方も、

「それじゃ話が違う。現実には、自分たちもさらに別の業者に委託するのであって、先にどんどんお金がかかる。」

「この業界では、そんな半金、半金なんてやり方はしない。」

「だったらもうやらない。」

と言われて、私も、その話を引き受けてしまった手前、その残りの半金については、自分が立て替えて出してあげることにしました。

そして、とにかく、支払いさえすれば、2人協力していろいろやってくれるのだと思っておりましたが、現実にはBさんが、とってもルーズな人間で、連絡してもなかなか連絡がつかない、たまにミーティングを開いても、なぜ進捗が悪いかの様々な言いわけ、ということで、Aさんの怒りが爆発してしまい、Bさんと決裂することになりました。

しかも、Aさんは私に対して、

「あなたはBさんという人をどういうつもりで私に紹介したのですか?」

「私が支払ったお金は全く無駄になっています。」

「どうしてくれるのですか?」

と私に矛先を向けようとしております。

そういう経緯が在る中、私自身は全く別の仕事をしているのですが、その仕事自身が大変、売り上げが悪くなってきてしまい、私も、Bさんに立て替えたお金を返してほしいと思い、Bさんにその話をしたら、実は、知らない間に、メール配信をしたりして、すごく費用がかかっている、むしろ、我々の方がお金を清算してほしいと思っている、という話をされました。

そこで、思ったのですが、本業(個人事業)もどうせ、このままいけば借金が増え続けるだけですし、もう、ここで一回、個人再生・自己破産しようかなと。

そうすると、Aさんからの請求(まだされているわけではないですが)はなくなりますし、Bさんは契約不履行ですから、損害賠償を請求できますよね?

別に、私がお金が欲しいと言っているわけではありません。

ただ、Bさんが何も返金しないままでいるのは、本当に許せないのです。

【ご回答】

はじめに~個人再生・破産により債権債務はどうなるか

仲介というのは、引き合わせた人たちが上手くいくときはすごく楽しいですが、そうでないと最悪です。

何もいいことないうえに、ご相談者様のように、両方から責められたり、自分も何らかの出捐を強いられることになったり、と、むしろ、それなら、そんな人たちとかかわらなければよかったという話になります。

個人再生・自己破産を仮にご相談者の方がした場合、この手の知人とのやりとりのもつれの結果による債権債務というのは、金融機関からの借入やリース会社のリース料等の場合と異なり、なかなか、整理が難しいです。

個人再生・破産による免責の効力

ただ、個人再生も自己破産も法的な強制的な手続きである以上、その時点での債務というものは、もし、債権者一覧表にあらかじめ載っかっていて、それが免責されれば、それ以降、免責された分について、当該債権者から請求されることはありません。

無償の仲介者には仲介責任はない

本件で難しいのは、そもそも、Aさんがご相談者様に何か請求できる権利があるのか、ということです。

引き合わせた相手とうまくいかずに、それによって損害を被ったといっても、それで仲介業務遂行上の過失によって生じた損害と言えるのか、ということです。

しかも、別に、仲介業務手数料をもらっているわけでもないですからね。

債権調査(債権届出書の送付)はした方が良い

ですが、念のために、個人再生や自己破産を申し立てる場合には、各債権者に、債権調査票というのを送って、債権者からどういう種類の債権について、いくらの請求額があるのか、というのを出してもらいます。

【債権調査票を提出する意義】

債権者からすると、債権調査票を出したからと言って、債権額が満額返ってくることなどまずないので(それができるのであればそもそも個人再生や破産しません)、債権調査票を出すなんて無意味だと思う方もいるようです。

ですが、個人再生は一部とはいえ返済義務が残りますし、仮に、自己破産であったとしても配当があった場合には、その届け出た請求額に比例して配当がなされるので、その点で意味があります。

また、配当がない場合でも、債権者が会社の場合には、どの債権について個人再生で債権カットがされたとか、破産で免責になったのかを明確にして、損金処理を適正に行えるという意味があります。

さらに、例えば、詐欺的借入等の場合に、債権届にその内容を詳しく書くことによって、裁判所ないし破産管財人にその個人再生者(再生債務者)、破産者は悪い奴なんだとアピールする意味合いもあります。それを読んで、裁判所や破産管財人は、債務者に対して、これは一体どういうことだ、と追及したり、調査してくれる可能性があります。

ですので、そもそも、Aさんがご相談者様に何かを請求することは、まず無理ですが、例えば、個人再生や破産が終わった後、やっぱりこれは、あなたの責任だ、などと請求されたりしても面倒ですので、 Aさんにも債権調査票を送っておいた方がよいです。

それで、仮にAさんが 請求したとしても、結局は、個人再生や破産の手続きに従い処理されることになるので、気になる債権があれば、個人再生や破産の際に全部明確にして、全部処理することがよい、ということです。

もし、逆に、Aさんが債権届を出してこなければ、それはそれで意味があります。

「あの時に、なんで債権があると届けなかったのですか?」と言えることになります。

損害賠償請求しないままでも個人再生や破産を申し立てることはできる

それから、問題のBさんに対してですが、こちらは、個人再生を依頼した申立代理人や破産管財人がどこまでやる気があるのか、にかかってくると思います。

ただ、個人再生については、あなたが訴訟覚悟でとことん追求してくれと弁護士に依頼すれば、損害賠償請求手続き自体はやってくれると思います。

破産管財人の場合には、多少、Bさんから事情を聞くぐらいはあるかもしれませんが、 損害賠償請求手続きとして、金を取り戻すための訴訟までいく可能性は極めて低いのではないかと思います。

~個人再生や破産の場合、返済額がとても少ない、そして自己破産の場合には配当がなされること自体がそれほど多くないので、「債権届を出したところで、お金がこんな雀の涙では意味がない。」とか「配当がないのであれば、意味がない。」と債権届を出さない方も結構いらっしゃいます。ですが、それでも、Aさんから将来、何か請求がなされるおそれがあるのであれば、債権調査票をAさんに送っておいた方がいいです。

仮に、裁判になっても、きちんと主張すれば、Aさんに支払い義務を負うなどと言うことはないと思うのですが、だからと言って、その裁判の対応をすること自体が大変です。

債権調査票を送っておけば、「裁判の冒頭(最初)に、もう債権調査票を送って、個人再生(破産手続き)も終了しております」と言えば、それで終了です。仲介者の責任がどうのこうのと説明する必要すらなくなります。

それにしても、不運ですね。

なんのメリットもなく、ただただ、時間・労力・お金が無駄になり、ストレスを抱えるだけになるなんて、こんなことあるのかって心から同情します。

でも、結構、あるんです。

以上、弁護士(仙台、宮城)からの解説は終わります~