~個人再生や自己破産を申し立てるときにまず一つのハードルとなるのがその申し立て費用です。
そして、会社の経営者の方の場合には、さらにハードルが高くなります。会社の民事再生や自己破産の申し立ての費用の方が高くなるからです。
さらに加えて、会社の経営者が自己破産や個人再生を申し立てる際には、会社も自己破産や民事再生を申し立てることを求められますので、費用が高くなります。
「お金がないから破産するのに、破産するにも金がかかるのか」とはよく聞くセリフですが、正確には、破産して借金の返済義務を消滅させたり、民事再生で大幅に借金の額を免除してもらうのに金がかかるのです。
ですが、もし代表者個人だけ個人再生や自己破産することができたら・・・と思う気持ちも分かります。今回は、そのような疑問等について弁護士(仙台・宮城)がお答えします~
【ご相談内容】会社の破産と代表者の破産・個人再生について
会社経営者(社長)です。
ですが、もう、今年に入って、まったく受注がとれないので、何か大きな受注が奇跡的にドーンと入ってこない以上は難しいと思っています。
要するに、会社をたたむしかないと思っています。
ただ、たたむにも借金がありすぎて、その返済も難しいです。
銀行も、もうリスケをやれるところまでやったうえでのご相談で、今は、利息しか支払わなくてもよいですが、その利息さえも払えません。
要するに、もう、会社を自己破産か民事再生するしかないところまで来ております。
実は、3件ぐらい弁護士事務所を回っては見たのですが(その3件はまったく関連性はありません)、どの弁護士もみな口を揃えたように、民事再生は無理だし、会社を破産させるのであれば、最低でも200万ぐらいは必要だし、会社を破産させるのであれば必然的に個人も個人再生か破産をせざるを得ない、と言われました。
個人の個人再生や破産の費用はそんな高くないことを言われました。
ただ、同業仲間で、法律に詳しい人がいるのですが、その人が裏ワザとして、「会社はそのままにして、社長個人だけが個人再生や自己破産できる」、「だから、個人再生や破産の費用も個人の分だけで済むから会社をセットにするのと比べるとずいぶんと安くなる」と言っておりました。
本当にそのようなことが、可能なのでしょうか?
それから、会社の破産のことばかり言ってきましたが、会社の民事再生とか難しいのでしょうか?
【ご回答】
会社の社長の破産と会社の破産
個人だけの破産の場合ですと、 管轄する裁判所により異なりますが、 同時廃止の場合で大体40万ぐらい、管財事件の場合でプラス20万円ぐらいです。
個人だけの個人再生の場合ですと、これも管轄の裁判所により異なりますが、再生委員がつかない場合には、35万~60万ぐらいです。
これに比べて、会社の破産については、たしかに、個人の場合と違って、結構、費用がかかります。
他方で、会社の社長等、会社代表者の場合には、代表者だけが個人再生ないし破産することを認めている場合もありますが、原則として、会社も一緒に破産手続きをすることを求められます
と言いますのも、特に、社長が破産する場合には、会社と取締役とは委任契約であるところ、破産は委任契約の解除事由になるので、取締役社長が破産を申し立てると、会社の代表取締役ではいられなくなります。
そうすると、会社の債権者は、会社にコンタクトを取ろうとしても、代表取締役という窓口が存在しないし、そもそも、代表権を持ったものがいないということで、会社を動かす権利を持つものが誰もいなくなってしまいます。
そこで、会社の代表者だけを破産させるという無責任なことはやめてくれということで、会社も破産することを求められます。
また、破産にせよ個人再生にせよ、現実問題として、会社と会社の代表者とは密接な関係があり、資産・財産の互いの移転もありますし、会社の代表者だけの資産を明らかにすると言っても、会社を抜きにできるものではありません。
ですので、手間としても、会社代表者の資産調査等をすることは会社そのものの資産調査をするのと同じような手間がかかります。
雇われ社長の破産
ただし、これは、いわゆるオーナー(経営者)社長のお話です。
雇われ社長で、単に、会社から役員報酬をもらっているだけの場合には、会社の取締役を辞任すればそれで終わりですので、会社も一緒に破産手続きをとれなどと言うことにはなりません。
考えても見てもらいたいのですが、東芝やシャープの社長が辞任して個人的な借金を整理するために自己破産するからと言って、じゃあ、東芝やシャープを自己破産させろ、と裁判所が言い出したら、おかしな感じがしますよね?
会社が形骸化している場合
あとは、たとえ、経営者社長であっても会社を破産させなくてよい場合としては、随分と以前に営業を中止しており、会社と言っても形骸化してしまっているような場合です。
その場合には、債権者もひとしきり騒いだあとでしょうし、あまりに昔のこと過ぎて会社の資料等も残っていないでしょうから、代表者個人だけが破産することを認められるのです。
個人事業に近い会社の場合
また、会社とは言っても、代表者である社長一人の個人事業的なもので、債権者の数も少ないなどの場合にも、稀に認められることもあります。
ですが、これは、あくまでも例外的な措置ですし、それでも、裁判所によっては、一緒に破産処理しろと言ってくることもあります。
今回のケースでは、ギリギリまで営業している、いわゆる生きた会社ですので例外的な場合にも当たらないと思いますし、会社代表者だけが破産というのはまずは認められないかと存じます。
会社の民事再生
なお、民事再生についてですが、
3件の弁護士事務所からそのように言われたからと、別に、それに付和雷同するつもりはないですが、そうだとすると、感覚的にはその可能性の方が高い気がします。
そもそも、会社の債務をカットすれば、会社の経営状態を回復できる具体的な見通しはございますか?
もし、会社破産の捻出ができなくて、その代わりに、会社の民事再生なら費用が安く済むのではないかと思っていらっしゃるのであれば、むしろ逆です。
民事再生の方が費用がかかります。
それはそうです。
会社を殺さないで動かし続けながら、負債の整理をしようとするのですから、会社破産の手続きの複雑さとは比べ物になりません。
会社の破産ないし再生の費用捻出
本当に費用がねん出できないとおっしゃっておりますが、本当にそうなんでしょうか。
直近まで会社は動いているわけですよね?
売掛とか在庫とか、保険とか、本当にねん出できないですか?
あるいは、本則に戻って、費用をコツコツと積み立てるという方法もありますので、もう、3件も回って心が折れているかもしれませんが、もう一回だけ相談してみてはいかがでしょうか?
~金がなくて破産も民事再生もできないなら夜逃げするしかないですか?というのもよく聞くセリフではありますが、本当に毎月、コツコツ働いて破産費用を積み立てて、なんとか破産手続きまで漕ぎつけた元社長さんもいらっしゃいますよ。
まあ、よくも債権者をそこまで待たせたなということですが、それでも、金がないから何もできない、あとは逃げます、というよりも、よほど良いとは思いませんか?弁護士(仙台・宮城)としては、少しでも、前向きにやり直そうという意欲がある社長さんなら、債権者から「一体いつまで待たせるんだ!何もしないなら辞任しろ!」と言われても、可能な限りはお待ちしたいと考えております~