~消滅時効と言う制度は、債務があっても一定の期間返済していなければ、時効を援用することにより、その債務が消滅するという、ある意味、債務で苦しんでいる人にとっては夢のような制度ではあります。例えば、自己破産をする場合には、5件の債権のうち、2件が消滅時効で消滅したとしても、残りの3件が支払えないのであれば、結果は同じことなのですが、個人再生の場合には、5件の債権のうち、2件が消滅時効で消滅した場合には、それだけ返済総額が減ることになるので、消滅時効が成立するかどうかはとても重要な問題です。ですが、そう簡単に時効が成立するわけではありません。具体的な時効制度および時効が成立しない場合の対応について、弁護士(宮城・仙台)からのアドバイスです~
【ご相談内容】消滅時効及び借金の法的整理について
私は夫と、宮城のとある地方で小さな温泉旅館を経営しておりました。
ところが、年々、お客の数が少なくなり、施設もかなり傷んできたので、5年ほど前に、改装等を行うために、約8000万円の借入れを夫の名義でおこしましたが、私も連帯保証人にさせられました。
改装等を行い立派にはなったのですが、残念ながら、期待していた仙台からの客足は伸びませんでした。
この件だけが理由ではないのですが、夫とは不仲になり、結局、離婚することになりました。
子供はいません。
離婚後も旅館のことがあるので、一緒に仕事はしておりましたが、安売りなどをしていて、結局、赤字が膨らむばかりであるため、旅館については、先日、廃業することにしました。
現在、旅館の新たな買い手探し等、たたむ準備をしておりますが、最終的には、夫は、破産する予定です。
現在は、夫は、タクシーに乗って日銭を稼いでいるとのことですが、私には関係ありません。
私は、保険の外交員をして、なんとか生活できるようにはなっております。
問題は、改装費の連帯保証分です。
3000万ほどは、債務は減る見込みであると聞いていますが、それでも、5000万近くの債務が残ります。
いずれにせよ、払える額ではありません。自己破産ないしは民事再生の個人版を申し立てなければならないと思います。
自己破産と民事再生の個人版との違いを、メリットとデメリットを含めて教えてもらえますか?
あと、友人から、
「5年経っているのであれば、時効なんじゃない?」
と言われましたが、
借金が時効で消えるなんて、そんなことがあるのでしょうか?
【ご回答】
貸金債権の消滅時効期間
まず、時効の点についてお話しておきましょう。
実は、時効についての民法上の規定については、改正民法施行期日政令により、2020年4月1日より、改正されることになっています。
改正前のすなわち現在の民法では、債権の消滅時効について、
「権利を行使することができる時」(客観的起算点)から、10年
と定められています(改正前、民法166条、167条)。
ただし、
商行為によって生じた債権については5年間(商法522条)
という短期消滅時効が定められています。
あなたの連帯保証については、 銀行からの借入れなので、商行為によって生じた債権ということになり、消滅時効は、
5年間
になります。
民法は改正されても銀行からの借り入れは消滅時効は5年
ちなみに、改正後民法では、
債権者が権利を行使できる時(客観的起算点)から10年
が経過したときに、消滅時効でその債権は消滅することになります。
加えて、
債権者が権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)から5年
が経過したときも、債権は時効によって消滅するとされています(改正後、民法166条1項)。
「権利を行使することができることを知った時」というのは、要するに、弁済期(返済期限)のことをいい、
当然ながら、銀行や貸金業者は、返済期日を知らないということはないので、結局、改正後の民法によっても、銀行や貸金業者などの金融機関からの借入れは
5年
で消滅時効にかかります。
時効期間が過ぎても自動的に債権が消滅するわけではない
ただし、借入れから5年経てば自動的に消滅時効で借金がなくなるわけではありません。
そんなことを言っていたら、例えば、住宅ローンなどは、通常、10年とか20年とか長期のローンとなりますが、5年過ぎたら誰も住宅ローンを支払わなくなってしまします。
消滅時効については、「中断」と言って、一度、その行為が行われたら、再び、その時点から、時効期間がカウントされる制度があります。
それで、その「中断」行為というのは、いろいろありますが、一番よくあるのは、
・債務承認
と
・弁済
です。
要するに、自分に債務があることを認めて(債務承認)弁済するたびに、時効は中断するので、結局、住宅ローンなどは、いつまで経っても時効で消滅することはないということになるのです。
時効期間のカウントが始まると債権者は債務名義をとりに来る
「それなら、むしろ、弁済しないで時効期間が経過するのを待った方がいいのでは?」
などと思うかもしれませんが、そんなに金融機関側も甘くはありません。
当然、時効期間が経過するのを、ただただ指をくわえて待っているはずはありませんから、弁済が滞った段階で、対策をしてきます。
その対策のうちの最たるものが、債務名義をとることです。
債務名義と言うのは、要は、判決です。
支払いが滞ると、当初は、電話や書面での督促が始まり、それでも支払わなければ、金融機関は支払いを求める裁判を起こして最終的には判決を取られます。
判決が確定すると、また、そこから、時効期間が振出しに戻ります。
ちなみに、住宅ローンの場合には、ほかにも、よくある時効中断事由があります。
それは、「競売」です。
住宅ローンを組むときには、必ず、その住宅に抵当権という担保が設定されますので、その抵当権が実行されて、競売が開始するとなると、やはり、時効は中断するのです。
本件の場合に話を戻しますと、その弁済や裁判についての事情が分からないのですが、現実の例として、債権者である金融機関が、いつまでも督促だけはするけど、なかなか裁判を起こさない、という場合はたしかにあるのです。
ですので、まずはそのあたりを十分に確認してみてください。
時効の援用とは
それで、調べてみた結果、5年経っていたという場合ですが、そのままでは時効の効果は発生しません。
では、どうすればよいのかというと、「時効の援用」というものをしなければなりません。
「時効の援用」というのは、時効の効果を受けたいので、私は、その意思表示をします、というものです。
通常、この時効援用通知は、内容証明郵便で行います。
あとで、例えば、督促や請求などされてしまった場合に、
「たしかに、時効の援用を通知しましたよ」
と言えるようにするためです。つまり、証拠です。
法的整理で破産と民事再生の違い
それで、時効を援用することがきちんとできて、債務が消滅すればよいのですが、そうでない場合には、とても払える額ではないということですので、法的整理、つまり、
「自己破産」
ないしは
「民事再生の個人版」(個人再生)
を行わなければなりません。
両者の違いは、
(1)「自己破産」は債務が全部免責されるのに対して、「民事再生の個人版」は債務は一部残る点、
(2)「自己破産」はその利用に額の制限がないのに対して、「民事再生の個人版」は5000万円までという制限がある点、
(3)「自己破産」は免責不許可事由があるのに対して、「民事再生の個人版」は免責不許可事由がない点、
(4)「自己破産」は一定の職業につけなくなるのに対して、「民事再生の個人版」は職業制限がない点、
本件で問題になるとすれば、
負債が5000万円に収まるか、
という点と、
保険外交員のお仕事をされている
という点です。
・負債が5000万円を超える、
という場合には、「民事再生の個人版」は使えません。
あるいは、
・保険外交員の仕事を続けたい、
という場合には、「自己破産」は使えません。
その他、ご相談内容を聞く限りでは、免責が問題となるような事情は特に伺えませんので、破産しても免責を得られないということはないと思われます。
~再度、債務の返済履歴をよく確認して消滅時効が成立しているかどうかを検討してください。もし、時効が完成しているかどうか分からない場合には、司法書士ないしは弁護士に検討してみてもらってください。無料ではないかもしれませんが、その点はとても大事なことです。以上、弁護士(宮城・仙台)からの破産と個人再生の相違点も含めたアドバイスになります~