個人再生が認められしても完済できなかったらどうなりますか?

~憧れの田舎暮らし。宮城でも、蔵王の別荘地とか、登米の古民家とか、一見、楽しそうではありますが、現実の生活を送るとなるといろいろありますが、特に、金銭的な問題は大事です。

個人再生は、債務が大幅にカットされますが、その残りはきちんと3年ないし5年以内に完済しなければなりません。

ところが、その決められた返済期間に返済できなかったら、どうすればよいのか(どうなるのか)?について、弁護士(宮城・仙台)がお答えします。~

【ご相談内容】個人再生認可後の支払い不能について

定年退職した父親が東京での生活に疲れたので、宮城の田舎で農業でもしながら静かに暮らしたいと、3年前に移住し、かつ小さな家も買いました。

その時は、わずかですが、退職金と蓄えがあるのでそれに農家をすればなんとかなるだろうと思っていました。

ところが、テレビや雑誌で見るような悠々自適な田舎暮らしというのは、全くあり得ない話で、農業とか言っても、ものすごい経費がかかり、片手間でやれるような代物ではなかったそうです。

しかも、持病の糖尿病が悪化してしまい、あっと言う間に、生活が行き詰まってしまいました。

私に相談されても、よくわかりませんから、本やインターネットの知識で、

「自宅を守りながら借金とか債務の整理をする住宅付き再生個人版がいいのではないか?」

とちょっとアドバイスしてみたところ、

「持病の糖尿病があるために、どこまで支払っていけるか不安だ。」

「仮に、その再生をして途中で家を手放したくなったらどうすればいいのか?」

「家を売却しても、住宅ローンの借金が残る場合はその再生はどうなるのか?」

とさらに突っ込んだ質問をしてくるようになり、私の方では対処できなくなってしまいました。

農業と年金で年間300万円ぐらいは収入があるそうですが、いつまで続けられるか分からず、農業をやめざるを得なくなったら、収入は半分ぐらいになってしまうと思います。

【相談に対する回答】

個人再生の返済ができるかどうかの検討

個人再生で認可決定を得るためには、

・負債総額によって定まる弁済額

・今後の収入から生活費を控除した余剰

とのバランスが取れていなければなりません。

例えば、弁済額が300万円になったとすると、毎月の支払額は、最大限5年間の弁済期間をとったとしても、1年間60万円、1カ月5万円の余剰が必要になってきます。

しかも、住宅ローンを支払って、それでもなお、5万円の余剰がでないといけません。

年間300万円の収入だとすると、1カ月25万円の収入の中から、生活費を支出して、さらに住宅ローンも支払って、余剰が5万円以上になりますか?

それが到底、難しいということであれば、そもそも、おっしゃるところの

住宅付き再生個人版、住宅付き個人再生、

つまり、住宅ローン特則(住宅貸付資金特別条項)付個人再生は、利用できないということになります。

個人再生できたとして支払えるのか?

「持病の糖尿病があるために、どこまで支払っていけるか不安だ。」

ということですが、

1)不安だとかなんとか言っていないで、とにかく、弁済期間の間、みんなで力を合わせて頑張る

2)だったら、自己破産にする

かを決めないといけません。

それで、仮に個人再生の認可がおりて、途中まで支払いをしたのだけれども、それ以降の支払いができない場合、どうなるのか?ということですが、支払い総額の4分の3以上を支払ったかどうかにより、大きく結論が変わります。

ハードシップ免責とは

4分の3以上の支払いをした場合には、ハードシップ免責と言って、その後の支払いが免除される可能性が高いです。

ハードシップ免責とは、

1)債務者に責任のない事情で、再生計画通りの返済が極めて困難になったこと

2)債務総額の4分の3以上を返済していること

3)ハードシップ免責の決定が、債権者の一般の利益に反しないこと

4)再生計画を変更しても支払いの継続が極めて困難であること、あるいは再生計画の変更が極めて困難であること

という要件を満たした場合には、個人再生の認可で定められたその後の支払い義務が免除されるというものです。

まず、糖尿病が悪化というのは、

「債務者に責任のない事情で、再生計画通りの借金返済が極めて困難になったこと」

にあたります。

ちなみに、

「ハードシップ免責の決定が、債権者の一般の利益に反しない」

というのは、個人再生の開始決定時の清算価値を保証しなければならない、

つまり、清算価値分の金額を超え、かつ、債務総額の4分の3以上を返済していることが必要なのです。

ちょっと難しいですね。

清算価値とは

清算価値というのは、自己破産した時に手放さなければならない財産の金銭的評価額のことをいいます。

自己破産した場合には、原則として、持っている財産は手放さなければなりません。

家とか車とか預貯金と生命保険とか、そういうものは、基本的にお金に変えて、破産管財人の報酬と債権者への配当に充てられます。

ですが、個人再生の場合には、持っている財産を手放さなくてもよいのです。

手放さなくてもよいのですが、その分の金額は必ず返済しなければならないと定められるのです。

例えば、本来は、債権カットにより、返済額が150万円となった場合でも、

持っている財産の評価額が300万円の場合には、高い金額である300万円が返済額となります。

もちろん、逆の場合もあり得ますよね。

つまり、債権カットにより、その返済額が200万円と定められた場合に、

持っている財産が全部で100万円しかないというような場合です。

この場合には、別に、200万円にさらに100万円を上積して返済額を300万円にしなければならない、

ということにはなりませんので、やはり、200万円が返済額となります。。

要するに、返済額が清算価値を超えていることが必要とされるのです。

「ハードシップ免責の決定が、債権者の一般の利益に反しない」という要件と清算価値保障

話は戻りますが、ハードシップ免責の要件との関係で言うと、

本来の返済額が全部で400万円だけど、なんとか、300万円を返済した時点で病気になったとして、

その個人再生の開始決定のときに遡って確認して、当時、清算価値が200万円だったという場合には、

ハードシップ免責が認められます。

他方で、その個人再生の開始決定のときに遡って確認して、当時、清算価値が350万円だったという場合には、

残念ながら、清算価値に到達していないので、認められない、ということになるのです。

「再生計画を変更しても支払いの継続が極めて困難であること、あるいは再生計画の変更が極めて困難であること」 という要件の意味

「再生計画を変更しても支払いの継続が極めて困難であること、あるいは再生計画の変更が極めて困難であること」という要件は、月々の支払いが厳しくなってきたので、例えば、あと1年とか2年とか伸ばして月々の返済額を減らして、楽にするという変更をしたとしても、やっぱり、支払いが無理ということです。

病気になってしまって、これから全く支払いの余力がないという場合には、

いくら月々の返済額が少なくなったとしても無理ですので、

逆に言えば、このハードシップ免責の要件を満たすということになるのです。

~以上、ハードシップ免責についてのご説明でしたが、これが認められない場合には、基本的には、債務の整理は全くこれから支払っていけないということであると破産手続きをとるしかないのではないかと思われます。残念ですが。以上が弁護士(宮城・仙台)からの回答となります。~